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【明日への提言】経済学部・西山真一教授

 第3回「明日への提言」は、東北大学大学院経済学研究科で金融論、マクロ経済学および金融政策論を研究している西山慎一准教授に話を伺った。


〈現在の日本経済〉

 現在の日本経済はアベノミクスや日銀の金融緩和政策などの効果で景気は回復傾向にあると言える。物価は未だデフレであるが都市部を中心に上昇しており、数年のうちにデフレを脱却する事ができると予想している。

〈震災による経済への影響〉

 震災直後はサプライチェーンの寸断などで供給が滞り、生産が減少していたが、2年経った現在ではボトルネックも解消し、被災地の仙台などの一部地域では復興需要と共に景気もよくなっている。一方で被災地沿岸部や福島では未だ景気回復には至っていない。電力供給の面では、原発が停止状態であるため、火力発電に大きく依存せざるを得ない状況である。また、円安によるエネルギー資源の価格上昇と相まって電気料金も上昇してしまっているという問題もある。

〈TPPについて〉

 安倍政権はTPP参加に前向きであり、それについては個人的に賛成できる。この件については日本の各産業の長所と短所を冷静に分析し、どの分野に日本の比較優位が存在するかを見極めて考えることが肝要である。
おそらく日本の比較優位は高い科学技術力であり、将来的にはそれを活かした製造業の分野での輸出を伸ばしていくことが重要であろう。
 しかし、ここで最大の懸念である農業の問題にも目を向けることも重要であり、経済全体の利益のために農家が犠牲になってしまう事態をいかに軽減・回避していくかを考えることも同時に重要になってくる。政府は米加豪の安い農産物が大量に入ってくることによる市場激変に対する緩和措置を予め策定しておく必要があろう。また、農家もただTPPに反対するだけでなく自ら積極的に「攻めの農業」を展開し、日本の農家にしか作れない、他国との差別化を図った農産物を国内外に販売していく努力も必要だ。たとえば質と安全性に特化した農産物を作っていくことも一案だ。

〈アベノミクスについて〉

 アベノミクスの軸は3つある。一つ目は積極的な金融緩和によるデフレ脱却であり、これは成功しつつあると言っていいだろう。二つ目は機動的な財政政策である。今次国会で大規模な政府予算案が承認されたことによって、あとはいかに無駄なく迅速に予算を執行していくかに焦点が移ったと言える。ただし、政府債務残高の対GDP比が200%を超えている現状では。債務累増に歯止めをかけることも喫緊の課題である。安部内閣では債務累増の抑制政策が明確でない点は気がかりである。そして、三つ目が成長戦略である。これは日本の科学技術力を向上させる投資を積極的に行い、規制緩和を進めて行く狙いがあり、方向性としては望ましい方向に向かっていると評価できる。しかし、どの科学技術分野に投資を進めていくかが重要で、確実に伸びていく分野、そして経済成長に資する分野を見極めて行く必要がある。政策当局者には経済学的な視点と科学技術諸分野に関する深い理解が求められる。

〈日本の大学および大学生に求められているもの〉

 大学の使命は研究と教育であるが、ここでは教育機関としての大学の使命について述べる。教育機関としての大学の目的は、次世代を担う学生に知識を教授し、知的生産性・創造性の育成を図っていくことにある。しかし、現在の日本の大学教育には大きな問題点が2つある。

 一つ目は、学部による縦割り教育・文理分断教育のことだ。日本では学部ごとの専門性に早くから特化しすぎており、少なくとも学部1,2年の間は学部横断的・文理融合的な一般教養の修養に今以上に力を入れる必要がある。ピラミッド建設の比喩で言えば若い内(建設段階初期)に分野横断的な幅広い教養・知識を身に付けておかなければ、広く強固な「知の土台」が形成されず、結果として「知のブロック」を高く積み上げることが叶わなくなる。
将来的に各自の専門分野で伸び悩む、あるいは大した貢献ができないという状況に陥りかねない経済学の例で言えば、近年コンピュータを利用した経済予測・資産価値評価・ポートフォリオ最適化といった応用化が金融機関で急速に進んでいる。また、ビッグデータに代表されるように統計学の知識も不可欠となっている。そのため経済学部における伝統的(文系偏重)なカリキュラムでは全く足らず、学部1,2年次に理学部・工学部生と共に解析学・情報科学・統計学・制御論などの授業をもっと履修していく必要があると感じている。経済学以外でも、現代では文系学生が就く職業においても科学知識・数理的センスが求められることが多くなっており、現代の文系学生は最低限の自然科学・数学を学んでおかなければならない。逆もまた同様に、理系であろうが英語の勉強は当然であり、それに加えて一般教養としてたとえば知的財産権・特許権の基礎である民法は学んでおくべきであろう。アメリカの大学では入学時点において学生を文系理系に分けることはしていない。日本の大学教育もそうあるべきであろう。

 二つ目は学生の勉学に対する意識の低さである。現代の大学生(特に文系学生)には単位さえ取れればそれでよい、という考えが蔓延しているように見受けられる。アメリカの大学では大多数の学生が好成績を残すために必死で勉学に励んでいる。この日米学生の勉学への意識の違いは、企業の社員採用方法の違いにある。日本企業は大学の成績をほとんど考慮に入れないが、アメリカの場合はかなり重要になってくる。また、大学院へ進学する際にも学部時代の成績は重要となってくる。日本の学生の勉学への意識向上のために企業に対して採用方法の見直し(成績重視)を求めたい。さらに員には学生モチベーションを高めるような講義を求めたい。アメリカの大学では、かなり丁寧な教科書と実生活・実社会に即した説明が行われている学生の勉学に対するモチベーションを高める一助となっている。


 このように問題点を挙げながら他国を比べてみると、日本では教育制度も学生の意識も世界基準とは大きく異なることがわかる。グローバル化する日本の経済をはじめとする様々な面から考えても世界基準の教育制度と勉学意識が求められる。そのために大学、企業、そして学生に対してそれぞれの改革が必要である。
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