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【書評】『謎好き乙女と壊れた正義』 瀬川コウ 新潮社

 本書は、今年3月に刊行された「謎好き乙女と奪われた青春」の続刊にあたる。主人公・矢斗春一は高校2年生。謎解きこそ自分の青春だと明言する後輩・早伊原樹里と、日常に潜む謎を共有し、解明していく。今回の舞台は学園祭。華やかな行事の裏で起こる複数の謎を解き進めるにつれ、物語全体を覆う謎・テーマが明かされていく。




 前作同様、今作でも人物描写の丁寧さ、絶妙さは健在だ。ページを追うごとに登場人物の関係性、心情が層を重ねていくように描写されていき、深みを増していく。そんな中でタイトルにもなっている「正義」の問題が頭をもたげてくる。

 「正義」という言葉から連想されるものは人それぞれ違うだろう。しかし一般に正義という言葉がただちに悪い印象と結びつくことはないように思える。だからこそ本書の、「壊れた」正義という題名は目を引く。「壊れた正義」とは何のことなのか。その答えを追いつつ読み進めていくうちに、読者は自身の行動を決めかねている春一の姿に気付く。

 自分の選択は正しいのか。場面や程度に差はあれど、しばしば直面する問いである。特に青年期は自覚のあるなしにせよ、自分なりの生き方を模索していく時期である。何か決断を下すときの迷いは特に大きいだろう。しかし迷った分だけ得るものもまた大きい。

 主人公・春一は、「真っ当な青春」を送ることを求めている。彼の考える「青春」とは、例えば恋愛や部活を通した友情のような、一般によく連想される青春かもしれない。しかし青年期に真摯に自分の生き方に向き合っていくことも、青春のひとつの尊い類型なのではないだろうか。春一は否定するかもしれないが、彼もまた、青春の只中にいると言えるかもしれない。

 青春は甘い思い出だけではない。本書は、誰もが経験する青春の苦さにも寄り添っているからこそ、幅広い世代に支持され得るのではないだろうか。新潮社・637円(税込)

せがわ・こう 1992年山梨県生まれ。本学在学。2014年「完全彼女とステルス潜航する僕等」でデビュー。同年9月には「謎好き乙女と奪われた青春」が「スマホ小説大賞」で新潮文庫賞を受賞した。

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