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【研究成果】難病の病因タンパク質を発見 ~新たな診断法や治療薬の開発へ~

 医学系研究科循環器内科学の下川宏明教授の研究グループは世界で初めて、国指定の難病「慢性血栓塞栓性肺高血圧症」の病因たん白としてトロンビン活性化型線溶阻害因子(以下、TAFI)を同定した。慢性血栓塞栓性肺高血圧症とは、肺動脈の末梢で血栓が器質化して血流が流れにくくなり、肺動脈の血圧上昇(肺高血圧症)から右心不全をきたす致死的疾患のこと。重篤化するまで自覚症状が表われないという。




 正常な人の体内では血栓を溶かす線溶系の働きにより血栓が除去される。本症において血液を固める凝固系に異常がみられた症例の報告はなく、血栓が除去されずに器質化する原因は今まで解明されていなかった。


 そこで下川教授の研究グループは線溶系の機能異常の可能性に着目し、慢性血栓塞栓性肺高血圧症患者、肺動脈性肺高血圧症患者、正常人の3群の血液や血栓を用いた臨床研究を行った。その結果、慢性血栓塞栓性肺高血圧症患者のTAFIの血中濃度が異常に高いこと、線溶系の主な働きをするtPAに対して反応が低下していることがわかった。tPAは血栓を構成するフィブリンにリジン残基で結合し、血栓を溶解する。TAFIは、この線溶反応の過程において、リジン残基を切断して線溶反応を抑制し血栓を安定化させる働きを持つ。

 また、tPAへの反応が悪い患者ほどTAFIの血中濃度が増加していることも判明した。さらに、本症の患者の血小板は活性化しやすくTAFIの放出量が多いことも明らかになった。重要なことに、TAFIの血中濃度の増加はバルーン肺動脈形成術後の肺高血圧症の改善後も変わらず、また、TAFI阻害薬により線溶系低下の改善がみられたことから、TAFIの増加が慢性血栓塞栓性肺高血圧症の原因であると結論づけた。

 本症の代表的な治療法はバルーン肺動脈形成術という高度な方法だ。東北大学病院循環器内科はその治療を実施することができる国内有数の施設の一つであり、東日本一円から患者が紹介されている。また、4月に発生した熊本地震におけるエコノミー症候群をきっかけとして本症が話題にのぼり、関心が高まっている。

 今回の発見により、TAFIを標的とした新たな創薬が期待される。加えて、TAFIの血中濃度の測定により、慢性血栓塞栓性肺高血圧症を発症するリスクや臨床経過を判定するバイオマーカーとしても有用である。下川教授は「難病の根本療法につながる大きな一歩。社会の発展に貢献できれば」と今後の研究について熱意を見せた。

研究成果 8677480560376427538
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