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【研究成果】むし歯に健康格差 ~乳幼児の成長に影響か~

 歯学研究科の相田潤准教授らは、乳幼児の成長とともに「むし歯の健康格差」が拡大することを解明した。健康格差とは、環境や社会的要因によって健康に明確な格差が生じることだ。




 調査は厚生労働省が2001年に実施した「21世紀出生時縦断調査」を基に行われた。約3万5千人以上の乳幼児のデータを集め、同じ子供で2歳6カ月時と5歳6カ月時でのむし歯治療経験の有無を調べてそれを親の学歴で分けた。すると2歳6カ月の時点では、大卒の親の子どもと中・高卒の親の治療経験がある子どもの差は3%だったのに対し、5歳6カ月では10%に増加していた。これには、個人の習慣や親の知識不足といった問題を越えた、複雑な要因がある。

 元々、相田准教授は、むし歯罹患者数の地域格差について調べていた。全国の中でも子どものむし歯罹患者が最も多い、東北地方等の小学校へ検診をして回っていた相田准教授が衝撃を受けたエピソードがある。それは、むし歯になっても検診に行かない子どもには、給食費が払えない、何日も風呂に入れない、といった厳しい家庭環境を持つ子がいるということだ。

 「現在日本には、健康に関して自己責任論が蔓延している。だが全ての場合を通して自己責任と言えるだろうか」と相田准教授は疑問を投げかける。

 たとえば親が共働きだと、子どもの歯磨きの付き添いや、歯医者に行く時間も取れない場合がある。どうしても忙しいときは、仕方なく子どもに甘いお菓子を与えて働きに出かける親もいる。「自己責任論を主張する人々は、そういった人々の存在を全く考えていない」と相田准教授は語る。

 子どもたちが自分自身の問題ではなく、環境要因によってむし歯に罹患してしまう。「この問題に対処するためには行政による公的な支援が必要だ」と相田准教授。更に言えば、従来の保健指導のような啓発活動ではなく、環境そのものを変えていく新たな取り組みが不可欠という。

 他には国で受診が義務付けられている乳幼児健診の場での指導や、幼稚園や保育園・小学校でのフッ化物洗口の導入があげられる。フッ化物とは歯磨き粉にも入っている、歯に付着することでそれ自体を強化する成分のことだ。このフッ化物を巡る話から、日本での公衆衛生の問題点が見える。

 欧米は日本と比べて圧倒的に砂糖の摂取量が多い。それにも関わらず、虫歯の罹患者率は日本よりも低い。これはアメリカの水道には、緑茶と同程度のフッ化物が含まれているからだという。またフッ化物洗口を導入した佐賀県や新潟県の小学校では、むし歯になった子どもの数が減ったというデータが出ている。だが日本国内では、フッ化物の使用は控えた方がいいという意見が未だ残っている。それは「限られたデータのみを参照し、フッ化物使用を反対する人々がいるからだ」と相田准教授は話す。

 歯学部卒業生の進路内訳を見ると、9割以上が歯科医師などの臨床へと進み、基礎研究に行く者は1割に満たない。更に基礎研究に進んだ者の中でも、ほとんどは疫学や公衆衛生の研究から離れてしまうため、絶対数として疫学者が少な医のが現状だ。そうした背景が正しい知識の普及を阻み、ひいては日本の公衆衛生活動の進展を妨げている。

 貧困によって生じる構造的な問題。そして日本の公衆衛生の厳しい状況。この二つが複雑に絡まり、むし歯の健康格差問題を作り上げている。その中でも相田准教授は「あらゆる側面から格差を減らしていきたい」と今後の研究に対する意気込みを見せた。
研究成果 8846094784394315014
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