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【書評】『マッキンダーの地政学』 H・J・マッキンダー 原書房

 ロシアの大統領ウラジーミル・プーチンは国会議員達の前で「ソ連の崩壊は20世紀最大の地政学的破局だ」と演説した。地政学とは国家の地理的な条件が政治、経済、軍事に対してどのように影響するかを研究する学問である。現代地政学の基礎を築いたハルフォード・ジョン・マッキンダーが第一次世界大戦後に出版したのが、『マッキンダーの地政学』に収められた『デモクラシーの理想と現実』である。




 まず、マッキンダーは国家を陸での活動を主とし陸軍を主力とする「ランドパワー」と海洋及び河川での活動を主とし海軍を重視する「シーパワー」に分けた。一般的に、エジプトやローマのようにシーパワー国家の方が貿易を有利に行える上、機動力を用いて他国を牽制できるため、発展しやすいと考えられている。一方で、ランドパワー国家は海洋からシーパワー国家を攻めることはできないが、陸側からなら優位に立つことができる。そのため、ランドパワー国家とシーパワー国家は紛争状態となる宿命にある。

 歴史的に見ると、ユーラシア大陸とアフリカ大陸は両方合わせて一つの島としてみており、これを「世界島」という。この世界島はアメリカ大陸やオーストラリアなどの他の地域と比べて、人口などの点で圧倒的に優位に立っている。したがって、もし世界島が一つのグループによって統一されてしまった場合、そのグループが世界の覇権を握ることになる。その場合、海洋から攻めることができない上、平原上となっている地域「ハートランド」に広大な勢力圏を持つランドパワー国家のソ連が世界島を統一する可能性が高い。したがって、イギリスを初めとするシーパワー国家はアラビアから日本に至るまでの海沿いの地域を勢力下に置き、東欧を緩衝地帯とすることでソ連を封じ込めなければならないという。

 当時は第一次世界大戦が終わったばかりであった上、その後にナチスドイツが台頭していたため、イギリス最大の敵はドイツであるという考えが強く、イギリスの敵はソ連であるとするマッキンダーの主張は当初受け入れられなかった。しかし、東西冷戦が始まったことで、マッキンダーの主張が重要視され、シーパワー国家のイギリスやアメリカは朝鮮半島や東南アジアなどにおいてソ連と勢力圏を奪い合った。その結果、現在マッキンダーの「デモクラシーの理想と現実」は預言書として確固たる地位を手にしている。
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