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【書評】『堕落論』坂口安吾 新潮文庫

 世間では今年の抱負だの「一年の計は元旦にあり」だのと口うるさく言われる今日この頃だ。荒唐無稽な目標を知人に話したり、書き初めにしたためたりして後悔した経験のある方も多いだろう。浪人を経験した筆者にも現役受験の年の元旦には苦い思い出がある。

 そんなこの時期におすすめしたいのが坂口安吾の評論集『堕落論』(新潮文庫)だ。表題作『堕落論』をはじめとして、太宰治の死を当時の身近な人間の視点から考察した『太宰治情死考』や、無頼派的観点から文学におけるモラルのありようを説く『文学のふるさと』など、代表的な著作を多数収録している。

 新年早々堕落とは何事だ、と思われるかもしれない。しかし、筆者はむしろ新年だからこそ坂口が唱える「堕落」が必要だと考える。

 本論の要旨は「生きよ、堕ちよ」の一文に集約される。人間は過大な理想を追い求め、その虚飾の美しさへの執着から自分や他者の命を絶ってしまうことすらある。もちろん私たちはその願望通りに生きることはできないので、かりそめの理想像から抜け出し、自分自身を発見する(=堕落する)必要がある、と述べられている。

 かなり大げさな話だが、新年の陽気にもこれに通じるものがあるのではないだろうか。1月は年月の経過を実感し、進級や就職、進学が近づき、何につけても焦燥を覚える季節でもある。その上、冒頭で述べたように自らの目標の明文化を求められる機会もあり、祝い事の浮ついた雰囲気も相まって落ち着いてこれまでの自分を評価することは難しい。しかし、実像からあまりに離れた目標を追い求め、年の初めから三日坊主に終わったり、体調を崩してしまったりしては本末転倒だ。そうした空気から一歩引いて自分を見つめ直し、少々「堕落した」抱負を立てるくらいが丁度良いだろう。

 坂口は戦後間もない時期に精力的に活動し、他にも『桜の森の満開の下』、『風博士』などの作品を残している。いずれも短編で読みやすく、現時点では青空文庫にも収録されている。新年の最初の一冊に選んでみてはいかがだろう。
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