【一言居士】ー2023年10月ー
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「今忙しいから」。そう言い放つ彼を横目に筆を走らせる。確かに多くの仕事を抱えているようだが、言葉とは裏腹にそう言える余裕がまだあるではないか、と皮肉混じりに思った▼先月1日は関東大震災から100年の節目に当たる。本学史料館だより第15号には、本学附属病院の医師らが被災者の救護活動を行っていた記録が紹介されていた。災害の記録を見るにつれ、今日の延長線上に明日があるという認識の不確かさが露呈してくる▼「而今」。禅の言葉で、今この瞬間を懸命に生きるという意味を有する。明日という日の不確かさを鑑みるにつれ、その意味を実感する▼哲学者のセネカは「多忙に追われている者たちにとって、まさに最良の日は真っ先に逃げていく」と語る。「忙しい」状態は、何も今を懸命に生きている証左ではないことは明白だ▼新学期。勉学や研究、バイトにインターンといった予定を詰め込む前に、「今忙しいから」と愛想よく言えるほどの風穴くらいは開けておきたいものだ▼冒頭の皮肉をこの場で彼にわびようと思う。 (文責・杉山)