【紫綬褒章・受章】伊藤貞嘉名誉教授 ~高血圧・腎臓分野に貢献~
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令和元年秋の褒章において、本学医学系研究科所属の伊藤貞嘉名誉教授が紫綬褒章を受章した。伊藤名誉教授は内科学、特に循環器に関する世界的権威の一人である。レニン(ホルモンの一種で主に血圧を高める作用を持つ)の分泌調節に緻密斑(腎臓内の特殊な細胞群)が関与すること、緻密斑が体内の塩分バランスを感知して糸球体(血液をろ過する器官)への血管収縮を変化させることを明らかにした。また、類似した血管構造により慢性腎臓病と脳・心疾患の関連を説明したstrain vessel説の提唱者としても知られ、その他高血圧や腎臓病に関わる多数の臨床研究や治療ガイドラインの制定に携わった。今回の受章はこれらの功績が高く評価されたことによる。これまでの研究について話を伺った。
伊藤名誉教授は1979年に本学医学部を卒業し、81年に本学附属病院の第二内科に入局した。研究の道に進んだきっかけは、師事した故・阿部圭志名誉教授から留学を勧められたことだった。留学先のデトロイトでレニンの研究を持ちかけられ、緻密斑との関わりを調べ始めたという。
伊藤名誉教授が行った実験は、生きた状態の緻密斑とレニンを分泌する輸入細動脈を取り出し、緻密斑の有無の違いによりレニンの分泌に差があるかどうかを検証するというものだ。当時、細胞から分泌されるごく少量のレニンを測定する技術は存在しなかった。研究は新しい計測方法を開発するところから始まり、約2年半の留学の中で、長らく仮説とされていたレニン分泌への緻密斑の関与をはじめて証明するという快挙を成し遂げた。
研究生活は決して順風満帆ではなかった。前述の研究を終えて帰国した2年後、留学先からの要請を受け、伊藤名誉教授は2度目の渡米を果たした。1度目の留学で得られた知見を深め、レニン分泌に関わるシグナルが伝達される機序を解明するためだ。ところが、実験系の開発も完了し、あと一歩というところで他の研究グループが科学誌「サイエンス」上で同じテーマの論文を発表し、研究内容の変更を余儀なくされてしまう。当時の心境について伊藤名誉教授は、「がっかりしたが、周囲の人々にも励まされ、すごすごと日本に帰るわけにはいかないと思った」と話す。そこで、緻密斑が持つ塩分濃度を感知する機能と、腎臓内の血管収縮に着目した研究を始め、これが新たな発見につながった。腎臓には輸入細動脈と呼ばれる血管が存在し、糸球体に血液を供給している。伊藤名誉教授はこの血管の収縮が緻密斑により制御されているのではないかと考え、緻密斑を持つ輸入細動脈の標本を作成し、かん流実験(組織標本に溶液を流す実験)を行った。複雑で前例の無い内容であったため、装置や圧力の測定方法の開発に1年を費やしたものの、約1年半という非常に短い期間で研究を完成させた。2度目の留学で2年目を迎える頃には永住権を獲得し、その後8年に及ぶアメリカでのキャリアにおいて、郊外の高級住宅地に自宅を構えるほどの成功を収めた。
95年に帰国し、97年には43歳という臨床分野では異例の若さで本学教授に就任した。慢性腎臓病の患者に脳卒中が多く見られることに注目し、strain vessel説を提唱したのはこの頃だ。慢性腎臓病では特定の血管が傷つき、微量のタンパク質が尿に排出される。この血管は高血圧に対し脆弱であるという特徴を持ち、同一の構造が脳や心臓などの重要器官に分布している。伊藤名誉教授はこれを「strain vessel」と命名し、慢性腎臓病と脳・心血管疾患の関連を全身におけるstrain vessel傷害の結果だとする仮説を立てた。すでに実験で証明され、臨床でも本説に沿う結果が得られているという。
これらの成果は医師や保健師に共有され、治療や検診、新しい薬剤の開発など、さまざまな分野に広く貢献している。今回の受章について伊藤名誉教授は、「自分が一生懸命努力したことが報われた気がする。素晴らしい人たちに出会い、助けられたことが大きい。自分と組織に誇りを持つこと、仲間を信頼して尊敬すること、社会への貢献、たゆまざる自己改革。この四つが大切だ」とコメントした。
伊藤名誉教授は2012年に本学研究担当理事に就任し、研究倫理のさらなる向上に努めるとともに、「知のフォーラム」の創設や青葉山キャンパスの次世代放射光施設の建設など、若手の育成や研究設備の充実に尽力した。昨年3月に本学を退官し、4月から刈田総合病院の特別管理者として勤務している。
伊藤名誉教授は1979年に本学医学部を卒業し、81年に本学附属病院の第二内科に入局した。研究の道に進んだきっかけは、師事した故・阿部圭志名誉教授から留学を勧められたことだった。留学先のデトロイトでレニンの研究を持ちかけられ、緻密斑との関わりを調べ始めたという。
伊藤名誉教授が行った実験は、生きた状態の緻密斑とレニンを分泌する輸入細動脈を取り出し、緻密斑の有無の違いによりレニンの分泌に差があるかどうかを検証するというものだ。当時、細胞から分泌されるごく少量のレニンを測定する技術は存在しなかった。研究は新しい計測方法を開発するところから始まり、約2年半の留学の中で、長らく仮説とされていたレニン分泌への緻密斑の関与をはじめて証明するという快挙を成し遂げた。
研究生活は決して順風満帆ではなかった。前述の研究を終えて帰国した2年後、留学先からの要請を受け、伊藤名誉教授は2度目の渡米を果たした。1度目の留学で得られた知見を深め、レニン分泌に関わるシグナルが伝達される機序を解明するためだ。ところが、実験系の開発も完了し、あと一歩というところで他の研究グループが科学誌「サイエンス」上で同じテーマの論文を発表し、研究内容の変更を余儀なくされてしまう。当時の心境について伊藤名誉教授は、「がっかりしたが、周囲の人々にも励まされ、すごすごと日本に帰るわけにはいかないと思った」と話す。そこで、緻密斑が持つ塩分濃度を感知する機能と、腎臓内の血管収縮に着目した研究を始め、これが新たな発見につながった。腎臓には輸入細動脈と呼ばれる血管が存在し、糸球体に血液を供給している。伊藤名誉教授はこの血管の収縮が緻密斑により制御されているのではないかと考え、緻密斑を持つ輸入細動脈の標本を作成し、かん流実験(組織標本に溶液を流す実験)を行った。複雑で前例の無い内容であったため、装置や圧力の測定方法の開発に1年を費やしたものの、約1年半という非常に短い期間で研究を完成させた。2度目の留学で2年目を迎える頃には永住権を獲得し、その後8年に及ぶアメリカでのキャリアにおいて、郊外の高級住宅地に自宅を構えるほどの成功を収めた。
95年に帰国し、97年には43歳という臨床分野では異例の若さで本学教授に就任した。慢性腎臓病の患者に脳卒中が多く見られることに注目し、strain vessel説を提唱したのはこの頃だ。慢性腎臓病では特定の血管が傷つき、微量のタンパク質が尿に排出される。この血管は高血圧に対し脆弱であるという特徴を持ち、同一の構造が脳や心臓などの重要器官に分布している。伊藤名誉教授はこれを「strain vessel」と命名し、慢性腎臓病と脳・心血管疾患の関連を全身におけるstrain vessel傷害の結果だとする仮説を立てた。すでに実験で証明され、臨床でも本説に沿う結果が得られているという。
これらの成果は医師や保健師に共有され、治療や検診、新しい薬剤の開発など、さまざまな分野に広く貢献している。今回の受章について伊藤名誉教授は、「自分が一生懸命努力したことが報われた気がする。素晴らしい人たちに出会い、助けられたことが大きい。自分と組織に誇りを持つこと、仲間を信頼して尊敬すること、社会への貢献、たゆまざる自己改革。この四つが大切だ」とコメントした。
伊藤名誉教授は2012年に本学研究担当理事に就任し、研究倫理のさらなる向上に努めるとともに、「知のフォーラム」の創設や青葉山キャンパスの次世代放射光施設の建設など、若手の育成や研究設備の充実に尽力した。昨年3月に本学を退官し、4月から刈田総合病院の特別管理者として勤務している。