【一言居士】 ー2024年7月号ー
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漫画『バガボンド』で、当主である兄を斬った主人公・宮本武蔵に、新当主の弟は勝てないと確信しつつ正面から決戦を挑む。一門の筆頭は弟の気負いも門下生の怒りも理解して、弟に「愚直は美徳ではない」と断じる。しかし弟は愚直を貫いた。一門は崩れた▼創作物を手ずから体験する喜びがあると思う。伝わらないと売れないからだろうか、ネットを中心とする今の売り場には、通俗的な解釈が浸透しすぎる。古典文学は要約されて、手軽な教養として消費される。ニュース番組も簡明に伝えることに重点を置く。節度ある純粋なわかりやすさを愚直に追求していたはずの姿勢は、とうに美徳を損なった▼あることを、ちゃんとわかってほしいから自分の好きに伝えてみる。他方、理解してもらえなかったとしたら、結局伝えなかったのと同じこと。説明もせずに理解を願うなんて欺瞞だ。だが理解すら拒絶する者に、どう伝えればよいというのか▼こんなこじつけではろくに伝わらないだろう。それなのに載せる。ひどいお笑い草だ。
(文責・小平柊一朗)