【連載】オフィスアワー ①授業中なぜ眠たくなるのか
身近な疑問を先生方に尋ねに行く新企画「オフィスアワー」。ふと抱くものの理由が分からない―そんな疑問の答えを報道部員が専門家に聞く。第1回は「授業中なぜ眠たくなるのか」について、教授に尋ねた。
「意欲や睡眠不足、食事直後などの体調の要因を除けば、悪いのは学生ではなく、授業をする先生です」。取材冒頭、邑本俊亮先生はそう言い切る。(聞き手は田中芙郁)
邑本俊亮教授 (写真は邑本教授提供) | |
―授業が悪いというのはどういうことですか
「伝えるべき情報量を把握していない」ことと、「伝える工夫が足りていない」ということです。
情報量について、「理解」は、もともと持つ情報を活性化しながら、関係のある新しい情報を増やすという形で行われます。学生が持っている情報を先生が把握していないと、「新しい情報が多すぎて理解が追い付かない」「知っている話ばかりで面白くない」ということが起き、眠くなってしまいます。
―「工夫が足りない」というのはどういうことですか
単調な授業になっているということです。これは、形式と感情に変化をつけることで、回避できます。形式の変化という点では、私の授業では、10分から15分に1回動画を流す、説明を補強する小道具を用意する、学生に作業をしてもらうなどの工夫をしています。感情の変化については、話の内容で感情を喚起する方法と、理解レベルで変化を与える方法があります。前者は面白い話や悲しい話を盛り込むことで、後者は初めに疑問を投げかけ「分からない」と思わせてから解決に導いて「分かる」気持ちにして、感情の起伏を作ります。変化をうまく用いて、どう面白いものを作るかを試行錯誤するのが重要です。
―邑本先生はどのように授業で扱う情報を決めていますか
全学教育科目では、学生が心理学に関する知識を何も持っていない前提で話します。大学院では、学部時代に心理学を学んだ人も学んでいない人もいるので、アンケートを行うほか、授業をテーマごとに初学者向け、中級者向け、上級者向けの3段階に分けています。この話題に関連して、「知識の呪縛」という言葉があります。人間の考え方の癖で、知識がなかったころの心理には戻れない、というものです。初学者のレベルを想像するのは難しいという意味で、学生の反応を見ることはとても重要です。
―それぞれの学生のレベルに合わせるという点で、レベルでクラスを分けることについてはどう思いますか
一概に良いとも悪いとも言えません。メリットには、先生が学生の知識のレベルを把握しやすい、デメリットにはレベルの違う学生同士が教え合うことができないことがあります。教え合いで知識を向上できるような、グループワークが得意な人もいれば苦手な人もいます。研究者の中では「全ての人に対して一番良い教え方というのは存在しない」という定説があります。対人積極性が高い生徒は対面授業、低い生徒は映像授業の方が効果的という研究結果もあります。
―先生の話す速さや話し方には何かポイントがありますか
オンラインでも、対面での対話の速さが望ましいと思います。人によって情報処理の仕方が視覚優位か聴覚優位かで異なり、視覚優位の人は、聴覚情報が速すぎると処理が追いつかなくなります。学習映像コンテンツを使った研究では、2倍速で再生すると、人によっては学習効果が低下するという結果があります。話し方に関しては、大事な箇所は、少し大きな声でゆっくり話す、学生の反応を見ながら間を入れるなど、話し方の工夫が分かりやすい授業の秘訣です。
―「面白い」というのはどういうことですか
常識とは違う、いつもと違うということではないでしょうか。心理学的には、お決まりのパターン(スキーマ)から外れることを面白いと感じると言われています。外れすぎても分かりづらくなるので、バランスが重要です。
むらもと・としあき
本学災害科学国際研究所、情報科学研究科教授。専門は教育心理学、認知心理学、実験心理学。全学教育科目では「言語表現の世界」や「心理学」、「東日本大震災から復興へ―感じ、考え、議論する―(基礎ゼミ)」などを担当。