【研究成果】ゾーン状態の脳波を測定 曾加蕙准教授らが初めて成功
本学電気通信研究所の曾加蕙准教授と程苗助教授を含む研究者らが先月6日、チームの集中力が高まり、感覚が研ぎ澄まされた状態、すなわちゾーンに入ったときの脳波を世界で初めて測定したと発表した。本研究では、チームでゾーンに入った場合と1人でゾーンに入った場合で異なる脳活動を示すことが判明。より効果的なチームビルディング戦略につなげることが期待されている。
曾准教授は、ゾーンの測定方法に 最も苦労したと語る |
時間を忘れるほど何かに没頭したとき、また集中して優れたパフォーマンスを発揮したとき、人はゾーンに入る。例えば、今年開催された東京オリンピック、パラリンピックで出場選手らが見せた活躍も、ゾーンが影響していたと推測される。ゾーンは課題と自分の実力が釣り合っているときに起こりやすい。また、個人でゾーンに入ることを「ソロフロー」、複数人でゾーンに入ることを「チームフロー」という。チームフローは「一体感」とも言い換えられる。
本研究の難題は、「人為的にチームフローを作り出し、客観的に測定するにはどうすればよいか」というもの。チームフローを起こすにはチームメンバーの知識や技術が同等のレベルである必要がある。さらに脳波を測定するため、研究室でなるべく早く再現や測定ができる活動でなければいけない。
そこで研究チームは、音楽を専攻する学生を集め、実力や音楽の好みが似ている2人を1組にしてペアを編成。音楽を使用したリズムゲームをしてもらった。実験では、ペアそれぞれに三つの異なる条件でゲームをしてもらった。一つ目は通常通りにゲームをしたとき。二つ目はペアの間をパーテーションで区切りチームの交流を阻害、ソロフローにしか到達しないようにしたとき。そして三つ目はゲームに使用される音楽をランダムな音列にすることでゾーンの邪魔をしたときだ。
この実験では、三つの条件の脳波それぞれを計測することで、左中側頭皮質(L‐MTC)がチームフローの際に特に活性化していることを特定。また、チームフローに入ると、ペアの脳波が同じような波長の動きを見せることもわかった。
曾准教授は本研究を「良いチームを評価するための指数となるだろう」と説明。また今回のように脳活動の特定を進めていくことで、個人の能力や性質に見合った仕事を割り振るということも可能で、実際にそれを採用に利用する日本企業も存在するという。
曾准教授はこれからの研究の展望として、「オンラインチームや人間以外とのチームでも研究をすることで、チームの多様性について考えても面白いのではないかと思います。それから非言語コミュニケーションについての研究も興味深いですね」と語った。