【受験生応援号2022】スポーツドクター辻秀一さんに聞く受験心得 ~「今・ここ・自分」を意識して~
「本番で実力が出せますように」。2次試験が目前に迫り、多くの受験生がこう願っているはずだ。「辻メソッド」によるメンタルトレーニングを展開しているスポーツドクターの辻秀一さんに、受験で力を発揮する方法を聞いた。
(聞き手は鈴木優梨子)
―そもそも、受験生が本番で力を発揮できない要因は何なのでしょうか
人間の脳は、外的な状況に大きく影響を受けるようにできています。人間の外界の三大要素は、環境、出来事、他人。この三つに人間の脳は接着しながら、やらなくてはならないことを常に考えているわけです。
受験会場に行くと、いつもと違う環境がそこにありますよね。人がたくさんいて、みんな自分よりも勉強ができそうに見える。その結果、心が揺らいだりとらわれたりして、力が発揮されにくくなります。
しかし実際は、試験を受けるのは自分で、問題を自分で解くだけなので、会場に千人いようが、たった一人だろうが、何ら変わりはないはずなのです。
―では、受験生が本番で力を発揮するためにはどうしたら良いのでしょう
「本番」という考えも実は、人間の脳が勝手に意味付けをして「今日は本番」と思っているだけ。では、勉強しているある日は「本番」ではないのか。二度とないその日も「本番」ですが、私たちは試験の日が「本番」だと後天的に意味付けしているわけです。
だから、その状況に対して私たちは心が揺らいだりとらわれたりしやすくなる。「みんな勉強ができそう」と感じるのも、勝手に脳がやっている妄想。「今日は試験本番だから大事」と考えるのも、人間の意味付けです。環境、出来事、他人という外界に脳が強く接着し、そこにいろいろな意味付けをすることで、心の状態が乱れます。
心の状態が乱れるとなぜ良くないかというと、勉強をはじめとした人間のパフォーマンスは、二つの要素でできているからです。それは、「何をしなければならないのか」と、「どんな心でやるのか」という、内容と質です。
「何をしなければならないのか」を考え実行する前に、先ほど言ったように心が揺らいだりとらわれたりすると、やっている行動の質が悪くなります。いつも解けていた問題が解けなくなったり、焦って良いアイデアが出なくなったりするということです。だから、心の状態を整えることが、自分のパフォーマンスを安定的に出していけるようになることにつながります。
―心の状態を整える方法とは
揺らがず、とらわれずの心の状態を、心理学では「フロー」と言います。人間は外界に大きく影響を受け、意味付けし、結果を求めようとする認知的な生き物なので、放っておくとフローの逆、ノンフローの状態を作ってしまいます。
だから、そのような構造を理解した上で、自分に気が付くことが大事です。意味付けしているなとか、結果のことばかり考えているなとか、そういうことに気づくこと。これが第一です。
その次に考えることは、「今・ここ・自分」です。この「今・ここ・自分」を裏切っている時、どんな人でも心が乱れて、ノンフローの状態になります。
「今」ではなくて、昨日のことを考えたり、浪人だった去年のことを考えたり。「ここ」ですべきことではなくて、まだ試験が終わってないのに合否のことを考えたり、「自分」ではなくて、周囲と比較したり。そうすると、心が乱れます。
そこで、自分が揺らいだりとらわれたりしていることに気づいて、その上で「今・ここ・自分」と言い聞かせていく。これが一番重要なことになります。
―受験のプレッシャーとの付き合い方について教えてください
目標だけで行動していると、志望校に受かるか受からないかだけが大事になってしまいます。では、折れにくい人、長く続けられる人が何を大事にしているかというと、目標よりも「目的」を大事にしているのです。
受験勉強は楽しいものではないかもしれません。自分の足りないところを見つめないといけないし、周囲からのプレッシャーもあるからです。しんどいときに大事なことは、目標より目的。自分はなぜ大学に行きたいのか、なぜ東北大学に入りたいのか。たくさんの受験生がいる中で、その「なぜ」を持っている人が心を整えて試験に臨んだときに、最終的に選ばれていくのです。
―最後に、受験生へエールをお願いします
受験というのは、もちろん合否が決まってしまうものです。でも、それがあなたの価値ではありません。受験の構造上、合格できない人もいますが、自分の価値がそれによって下がることは一切無いのです。
それは、東北大学に入ったとしても、変わることはありません。あなたの価値は、あなたしか無い。受かっても受からなくても、自分の価値をしっかり大事にして、信じていってほしい。それが、私のエールです。
つじ・しゅういち スポーツドクター。北海道大医学部卒。 慶応義塾大で内科勤務後、アスリート、音楽家、 ビジネスマンへのメンタルトレーニングを専門に独立。 著書に『スラムダンク勝利学』 『自己肯定感ハラスメント』など。 (写真は辻さん提供) |