【連載】一読三嘆 ①文学研究科 直江清隆教授 推薦 『理系と文系はなぜ分かれたのか』隠岐さや香
昨今、若者の本を読む時間が減っている中で、学生に読書のきっかけを与えてくれる本を、学問のスペシャリストである本学教員に教えてもらう。今回は文学研究科の直江清隆教授に、学生に薦めたい本を紹介してもらった。
◇ ◇ ◇
文学研究科 直江清隆教授 推薦
隠岐さや香 『理系と文系はなぜ分かれたのか』
常識と思っていたことを揺さぶってくれるような本との出会いは、多くの人にとって心地良いものであろう。隠岐さや香『文系と理系はなぜ分かれたのか』 (星海社新書)も、そんな本の一つではないだろうか。著者は『科学アカデミーと「有用な科学」』でも知られる気鋭の科学史家である。新書であるから難しいことが述べられているわけではないが、豊富な歴史的バックグラウンドから放たれる言葉には重みがある。
「文系」と「理系」という区分けは、すでに高校の時点で導入されていることが多いこともあって、当たり前のこととして浸透しているだろう。この区分は向き・不向きや学部の所属だけの問題ではなく、就職にとっても、産業や国家との関わりでも重要だったりもする。「二つの文化」という言い方がなされ、相手が何しているか分からないという状況がある一方で、世間では文理融合が言われたりもする。ここで、そもそも文系と理系はなぜ分かれたのと問うてもいいのではないだろうか。本書は、歴史的経緯をたどりながら、いま現在起こっていること、これからどうしていくかということに、目を向けさせてくれる。
前半の第1章、第2章では、西欧における文系、理系の諸学問の成立や、日本の近代化における文系・理系の区分が説かれる。本書のメインの部分であり、そもそもこの区別がどう生じてきて、日本の特質がどこにあるのかなどがとてもよく分かるが、いわば原理論でやや重たいので、この手の本を読み慣れない人は後から読んでも良いかもしれない。後半の第3章、第4章では、それぞれ産業界、ジェンダーとの関係から文系・理系について語られ、その後に第5章で学際化について考察がなされる。なぜ理工系の分野では極端に女性が少ないということが起こるのかといったことは、考えておきたい問題である。著者は「人文社会」「理工医」を分ける区別は絶対ではないと考える。しかし、分野間の共同が求められる事は増えているとはいえ、学際化のかけ声に乗って分野の垣根は消えていくと著者が考えているというわけではない。性急な結論を避け、バランスよく議論を紹介していくことで、読者をともに考察の旅路へと誘ってくれるのだ。
足元を見るという意味でも、文系、理系を問わず、全ての人に一度目を通してみることをお薦めしたい。これからの時代、この区別に拘泥していいことは何もないのだから。