【特集・東北大学英語教育評価 第1回】得点向上も「話す・書く」に課題
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<欠かせない英語力 本学の教育とその効果は>
本学の国際化が進む中、英語の習熟度の向上に向け各部署が全力をあげて学生を後押しする姿勢が見受けられる。全学教育と専門教育の有識者に話を聞き、本学で実施される英語教育の実態を探る。その教育的効果と問題点、そして東北大生の英語能力について、次号まで2回にわたり評価を行う。(スティーブン・リュウ)
・本学学部課程の英語教育の構成
学部における英語教育の構成は、大まかには2年前期までの全学教育(英語I、Ⅱ、Ⅲ)と各学部での英語教育からなる。全学教育における英語教育の目的は、高度教養教育・学生支援機構のライアン・スプリング准教授によると「研究大学としての本学で必要とされる、一般的な学術活動における英語運用能力を身につけること」と位置付けられる。その延長線上に、専門分野の学習や就職を対象とした英語教育があり、各専門分野に適した英語教育を行っている学部もある。各学部の専門的な英語教育に移行するタイミングは、英語Ⅲの修了が見込まれる2年後期が一般的だ。
・学術英語の入り口となる全学教育とTOEFL ITP
全学教育における英語教育のカリキュラムでは、団体向けの学術的な英語能力を測るTOEFL ITP®テストを実施している。本学ではTOEFL ITP®テストは主に学部1年生を対象とし、入学時および全学教育科目受講時の英語力を測るため、毎年4月と12月に全学で実施される。
2020年に新カリキュラムを導入してから、毎年12月の試験では、4月の試験と比べて平均得点が10点以上向上している。また、スプリング准教授によれば、新カリキュラムの導入から、平均点が毎年上昇し続け、最近では得点が550点以上の学生の割合がかなり増えている。TOEFL ITP®テストの成績から見れば、全学教育の英語科目は確実に成果を上げている。
ただし、TOEFL ITP®テストは英語4技能のうち聴く・文法・読む能力の評価を測る試験であり、総合的な英語力の指標としての妥当性には賛否が分かれる。同機構の桜井静准教授は、それでもこの試験を選ぶ理由をいくつか指摘している。例えば、英語4技能を評価する試験であるTOEFL iBT®やIELTSなどの英語能力試験は、受験にインターネットとパソコンが必要であり、ライティングなどにおける不正行為の防止も難しいといった点から、集団受験として実施するには壁がある。また、TOEIC®はビジネス英語の能力を検定する試験であり、本学の学生の学術英語能力の評価には不適切である。
・「話す・書く」課題
英語の話す・書くスキルはTOEFL ITP®テストでは評価されないが、研究における重要性は高等教育で認識されている。20年から、ライティングとスピーキングを重点的に鍛える独自教材および補助資料としてのウェブ教材が開発され、全学教育の英語教育に使用されるようになった。ウェブ教材の中で、人工知能が取り入れられ、学生の能動的学習を支援する効果が期待される。
現在、独自の共通教科書や教材を活用して、一般学術目的の英語の4技能を教えることを推奨する指導ガイドラインが作成されている。また、授業見学や担当教員の研修を行うなど、ガイドラインに沿った授業の進め方を定着させる工夫も行っている。しかし、学生のなかには、共通教材を使う授業の進め方が統一されていないため、担当教員によって授業方法が異なると感じている学生もいるようだ。
・全学段階の東北大生の学術英語の実力
23年の時点では、全学のTOEFL ITP®テストの平均スコアは日本の平均点である473点を大幅に上回った。しかし、英語の習熟度と運用能力を評価する国際基準CEFRでは、まだ中~上級レベル(B1)の学生が多い。一方、大学院への進学や専門分野での議論を行う際に必要とされるのはB2のレベルであり、英語圏への留学の際に求められる場合が多い。また、話す・書くスキルの評価は本学学内で完結し、TOEFL ITP®テストのような国際基準の能力試験で評価されていない。話す・書くスキルに関しては、東北大生の全国、ひいては世界での位置づけが曖昧である。
諸外国と比較すると、本学のTOEFL ITP®テストの成績は英語との言語的距離が近いドイツ、フランスなどの大学に劣るものの、中国や韓国の大学と肩を並べる。本学の英語教育が世界レベルで遅れていると嘆く必要はない。ただし、競争が白熱するアジア地域で高水準の学術的英語能力を獲得するには、まだ努力が必要だろう。