「ナノテラス」運用開始3カ月 構内の放射光施設管理や利用制度は
本学青葉山キャンパスに設置された3GeV高輝度放射光施設ナノテラスが、4月1日に本格運用を開始した。本紙は、東日本大震災が襲った仙台の地にナノテラスが建設された経緯と、地域や企業を巻き込む制度設計に迫った。
4月に本格始動したナノテラス =青葉山キャンパス(本学ナノテラス共創推進課提供) |
ナノテラスの設計計画は、2011年の東日本大震災をきっかけに始まった。兵庫県にある放射光施設「SPringー8」の運用に携わる十数名の研究者が、被災地を再び盛り上げる鍵として東北地方での放射光施設建設の計画を掲げた。
(キャプション:4月に本格始動したナノテラス=青葉山キャンパス(本学ナノテラス共創推進課提供))
放射光施設は、電子を光速付近にまで加速した際に放出されるエネルギーである放射光を、対象物質に照射することで観測・分析を行う施設である。その分析から得られるデータを数値解析することで、従来製品の改良、さらには新素材の開発などにもつながることから注目を浴びている。
放射光施設のような高度な技術を持つ施設の周辺には、その技術に注目する企業や研究機関が集結する「リサーチコンプレックス」が形成され、地域に新たな産業創出のサイクルが生まれることが期待される。ナノテラスの計画を考案した研究者らは、被災地で放射光施設を中心としたリサーチコンプレックスが形成されることで、産業発展の面から復興が後押されることを期待していた。
そのような使命を与えられたナノテラスでは、従来の特定放射光施設にはない制度も採用されている。従来の制度では、公益社団法人高輝度光科学研究センターが放射光施設の利用を希望する研究者を公募する「共用利用」の方式を採用している。研究課題の公共性、つまりは社会への還元度などを考慮して選定・順位付けを行って利用者を決めるという方式だ。特定放射光施設の建設には、莫大な費用を必要とする。その規模から国家予算からの歳出を基本とするため、国民全体への成果の還元(成果公開)が重視される。一方、営利的な利用や小規模な事案での利用には必ずしもマッチングしなかった。
ナノテラスでは、官民地域の連携を強化することを目的に、国が建設費の約半分の200億円を負担し、残り180億円を企業・自治体などの拠出により調達した。従来の共用利用の方式に加え、放射光に興味を持つ出資者が優先的に施設を利用でき、利用方法や課題解決へのアプローチのサポートを受けられる「コアリション」が、拠出の見返りとして制度化されている。この制度により、元来高度な研究での利用が優先されてきた放射光施設が、地域の中小企業でも利用できるほど身近な存在になる。
今回、話を聞いた本学ナノテラス共創推進課の渡邉真史特任教授は、「ナノテラスが産業と研究が交わるハブとなり、仙台で新たな研究が生まれることに期待している」と述べた。