【論点】飲酒トラブル、本学で相次ぐ ~問題発生の心理的側面とは~
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今年度だけでも、本学では、未成年飲酒や飲酒運転など、学生団体と教員を合わせて少なくとも4件の飲酒に関わるトラブルが報告されている。他者に迷惑がかかる可能性があるにもかかわらず、なぜ飲酒に関するトラブルは後を絶たないのか。法律に反した行動に及んでしまう心理について、文学研究科心理学研究室所属の荒井崇史准教授に話を伺った。
荒井准教授はまず、未成年飲酒と飲酒運転を行う際の心理状態については分けて考える必要があるとし、前者については「学生は未成年飲酒が禁止されていることを社会規範の一種のようなものとして認識していて、法律に違反しているという意識が希薄なのでは」と分析。加えて、「部活やサークルの飲み会では、その場の雰囲気をしらけさせないようにしようとする同調圧力の影響も大きい」と語る。しかしながら、未成年飲酒はそもそも「未成年者飲酒禁止法」で禁止されている。さらに、未成年者が飲酒をした場合、より責任を重く問われるのは、飲酒した本人ではなく、周囲にいる成人の監督者だ。そのため、この問題を防ぐ方法としては、たとえ飲み会の場であっても、上級生がモラルを保ち、団体の役割として、最低数人を止め役に確保しておくことが挙げられる。
一方後者については、年代によって「飲酒運転」に対する意識が違うのではないかというのが荒井准教授の見解だ。飲酒運転に関する取り締まりが現在のように厳しくなったのは、2006年に発生した「福岡海の中道大橋飲酒運転事故」以降で、実際に道路交通法が改正されたのがその翌年の07年。そのため、改正前の法律下で長年運転をしてきた人たちには「車を置いてくることが面倒である」あるいは「事故さえ起こさなければ大丈夫」という意識が残っているのかもしれない。また、若年層も含め、人間には一般的に「自分だけは事故を起こさないから大丈夫」という「楽観バイアス」を持っている。また、危険な状態が迫っていても、「自分は正常な状態だから大丈夫」という「正常性バイアス」が存在していることが、飲酒運転がなくならない原因ではないかと分析する。
一方、認知誤認を正すことの難しさも荒井准教授は指摘する。そのため、飲酒運転の発生件数を減らす方法としては、バイアスを正すよりも、呼気に含まれるアルコール量を検知する機能を車に搭載するといった技術発達や、店側が車を運転する客には酒類を提供しないといったような物理的な方法が最も現実的だろう。
しかし、結局のところ飲酒に関係する問題を技術だけで根絶することはほとんど不可能に近い。一人ひとりがいかにモラルのある行動をとることができるか。この点が重要だ。「この手の問題は、トラブルの当事者になるような人たちにはいくら啓発しても伝わらないし、伝わったとしても他人事として片付けられてしまう」と荒井准教授は強調する。
この時期は、忘年会や新年会などで酒の席に参加することも増えるだろう。無用なトラブルを起こさないよう、まずは自分の飲酒に関する姿勢を振り返り、楽しみつつも節度や周囲への気配りをぜひとも忘れないようにしてほしい。