【とんぺー生の夏休み2020】2年連続最優秀賞受賞・磯崎 良 さんインタビュー
―受賞にあたっての思いを
すごくありがたいことです。文学作品は、読んでくださる方の存在が不可欠です。読者がいなければ、文字に起こして形にしたり、文章力を磨いたりすることに意味はありません。今回実際に読んでいただいて、しかも読んだ方に評価をしていただき、とてもありがたいです。
―今回の受賞作『幽霊の足跡』について
この作品のテーマは「自分の中にいる、誰かは分からない誰か」です。最近「自分らしさ」という言葉をよく聞きますよね。ある行動や言動が自分らしいと思うためには、それ相応の視点や基準があるはずです。
それでは、その基準を決めるために「自分」を見つめているのは誰だろうと考えたとき、それは、定義があいまいで、姿や形がない幽霊のようなものではないかと思うんです。そして、その幽霊のようなものは、自分自身では分からなくても、きっと自分の中にいるのではないか――ということをテーマに書きました。
―作品の途中で「靴」が出てくるが、特別な意味があるのか
私たち人間が日常生活のコミュニケーションの場で無意識にかぶっている仮面を意識しています。例えば、学生が先生に話すとき、家族に話すとき、学生同士で話すとき、それぞれの態度は異なると思います。それは、人間がそのとき専用の仮面を心にかぶせているからで、相手や場面に合わせて脱いだり履き替えたりすることができます。それをこの作品では靴に例えて書きました。
―小説を書き始めたきっかけは
きっかけらしいきっかけはないのですが、小さいころから、何かを創作するということはやっていました。幼稚園の頃、ゲームに出てくる敵キャラを描いたのが始まりだと思います。中学生のとき、学級文庫で見かけた『中学生までに読んでおきたい日本文学』という本を読んで、文学や小説に興味を持つようになりました。
―影響を受けている作家は
村上春樹氏や安部公房、夢野久作あたりですかね。どの作家も本格的に読み始めたのは大学に入ってからなのですが、安部公房と夢野久作は、高校時代に読んだ作品が印象に残っていますね。
また、小さい頃星新一に入れ込んでいた時期がありました。高校生のとき、地元の新聞社の作文コンクールに応募し奨励賞をいただいたのですが、審査員の方々にその講評を聞く機会があって、「星新一の書くような、荒唐無稽だけどどこか説得力のある作品だ」と言われたのが特に記憶に残っています。
―読者の皆さんにメッセージを
文学や小説には、誰かの孤独や不満の受け皿になったり、人間の声を拾い上げたりするなど、いろいろな意味や役割があると思います。この作品も、そういった役割の一端を担っていけたら、作者としてはとてもうれしいです。
また、本を読むということは本と読者との対話だとよく言われます。ぜひこの作品を読み、作品と対話して、自分なりの作品の意味や、何か新しいものを見つけてもらえたらと思います。