【入学お祝い号2022・研究成果】音楽で作業へ向ける注意低下? 川瀬教授ら 音声小さくても
音楽は注意を低下させるという研究結果を、1月14日に、本学医工学研究科の川瀬哲明教授らの研究グループが発表した。音楽が人間の音に対する反応を抑制することは過去の研究結果からも知られているが、今回の実験では抑制の仕組みを解明することが焦点となった。
実験では、被験者にヘッドフォンを装着し、右耳から妨害音としてノイズまたは音楽を流し、左耳からテスト音を流した。被験者には左耳に注意を集中するように指示し、テスト音が聞こえる度にボタンを押してもらい、ノイズと音楽それぞれを流した場合の脳磁図を比較した。すると、妨害音として音楽を流した場合のみ、テスト音に対する反応の抑制や遅れが見られた。音楽の音量を、聞こえるか聞こえないかというレベルまで下げても同様だった。また、テスト音が聞こえたらできるだけすばやくボタンを押す実験でも、妨害音として音楽が流れている場合は、テスト音に対する反応の遅れが見られた。
実験では、テスト音と妨害音が互いに影響しないよう、フィルターをかけ加工。異なる周波数帯の音を使用した。また、妨害音の音量による変化を見る実験では、耳小骨筋の収縮などの影響も考慮し実施した。音楽には、過去の実験で反応の抑制が強くなると報告されていた、ジャズピアノを選択した。
ノイズより音楽の方がテスト音への反応を抑制させた結果に対し、川瀬教授は「音の種類によって注意の引きつけやすさが異なるから」と分析する。音楽のように音程やリズムに変化があるものの方が、注意を引きつけられやすいと見ている。
プレスリリースでは、音楽を聴きながら勉強したり運転したりする際も、音楽に「注意」が分散する可能性が言及されている。川瀬教授は、多くのことに注意を向ける必要がある勉強や運転は、今回のボタン押し実験のような単純なタスクと異なり、比較は難しいとしている。その上で、「(音楽を聞きながらの作業にはメリットとデメリットがあるが、)音楽が注意を分散させることは、ながら作業のデメリットにつながるのでは」と推測した。
追加研究として、妨害音に会話を使用したり、映像をとりいれたりする実験が始まっている。今後、騒がしい環境での聞き取りが難しい「聞き取り困難」を抱える人の検査などに貢献できると考えられている。