【特集・東北大学英語教育評価 第2回】英語教育 学生の意欲に差 ~国際的議論に向けた思考力を~
実践級目指すグローバル学習
本学の国際化が進む中、英語の習熟度向上を目指し各部局が全力を挙げて学生を後押しする姿勢が見受けられる。TOEFL ITPの点数の推移で全学英語教育を評価した前回に引き続き、今回は、専門教育における英語科目とグローバル学習を通じた実用的な英語学習について検証する。(スティーブン・リュウ)
■点数で測れない英語力の向上を目指す専門英語教育とグローバル学習
和訳と読解問題を素早く解くことが求められる大学入試に引き換え、大学では論文の読解や、世界への研究成果の発信に必要な実用的能力が求められる。このような学びの転換において、大学側が全学教育と専門教育、グローバル学習で手厚いサポートを行っている。例えば、医学部医学科は、医学専門英語の講義や英語での発表・討論を行い、工学部は集中講義で工学系論文の読解や執筆の演習に力を入れている。グローバル学習については、留学生と自由闊達に議論できる国際共修型授業やさまざまな留学プログラムのほか、英会話のSLA(Student Learning Adviser)指導もある。
英語力が著しく向上した学生がいる一方、大学のリソースを活用せず、学習効果の停滞が懸念される学生も多い。工学部の専門英語教育を推進する羅漢特任助教とグローバルラーニングセンター副センター長の末松和子教授に取材したところ、学生自身の学習意欲に帰結する問題であると分かった。
■意欲の両極化
羅特任助教によると、工学部の学生のうち入学当初よりTOEFLの点数が下がった学生は少なくない。長年の詰め込み式の受験英語に学習意欲が削がれてしまい、英語学習に能動的に取り組んでいないようだ。その一方、TOEFL得点分布の上位層には、留学生と帰国子女も含まれるが、日本の高校の卒業者も数多くいる。
グローバル学習の場合、国際共修や留学プログラムへの参加度において、学生間ではばらつきが目立つと末松教授は語る。例えば、正規交換留学を志望している学生のうち、60%が短期海外研修プログラムに参加した経験がある。短期海外研修プログラムを視野に入れている学生には、やはり海外体験や国際共修などの経験がある人が多い。正規交換留学の経験者には、「専門性を高めたい」「就職に向けて国際的な視野を広げたい」といった明確な目標があるだろう。一方、各種留学プログラムの応募人数を考えると、そういった意識を持つ東北大生が多数派とは言い難い。世界的な物価の高騰と円安の影響で、海外での生活に不安を覚え、留学を断念する学生が増えているようだ。
■英語力を高めるにはグローバル素養は必要
西洋では、中等教育の段階で論理的思考力に重点を置いている一方、日本の中等教育の現場ではそれほど重視されていない。その結果、高等教育機関で英語の論文を書けるかどうか以前の問題として、まず日本語で論理的な文章を書く能力が不足していると、羅特任助教は指摘する。英語でのアカデミック・プレゼンテーションにおいても、同じようなことが言える。致命的な弱点は語彙力ではなく、考えを伝え合う能力の不足である。学術の場において英語で議論を行えるにはまず母語、つまり日本語で議論を行える前提がある。
現在工学部では、日本語と英語両方の素材を読み解いて要約を作成する「アカデミック・ライティング」という演習型の授業が開講されている。全学教育段階の英語教育と専門科目である「工学英語」とを併せて、日本語と英語で論理的に構成された文章を書く能力を養成する効果が期待される。
また、世界の共通語である英語が使いこなせるようになるには、言語自体はもちろん、国際事情やグローバルな考え方になじむ必要がある。その姿勢を育むことは国際共修の狙いの一つである。末松教授は、授業で留学生とさまざまな話題について活発にディスカッションを行うことで、異なる視点から物事を考え、自分の意見を分かりやすく伝え、そして多角的な視点から問題を解決する能力を確実に鍛え上げていると話した。
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中等教育は、実用的英語能力とそれに関連するグローバル素養の向上を成し得ていない。日本の学習環境も海外に比べると閉鎖的だ。しわ寄せは大学へ行き、学部生の入学当初から重い責任がのしかかることになる。
本学は全学教育期間を設け、学術英語、専門英語とグローバル学習で日本人学生の英語学習を支援している。大学として豊富なリソースが備わっていると、高等教育の有識者と高校生に高く評価されている。
その教育的効果について、TOEFLの点数を基に判断すれば、読む、聞くなどの一部の技能を評価することは可能である。しかし、各専門分野に求められる特殊な技能や応用に密接に関連しているグローバル素養に関しては、評価が難しい。ただ、意欲の両極化から、本学学生の英語力には大きな差が見られる。意欲が低下している原因の一つに、英語を用いる進学と就職以外の面で、英語の実用的な価値が十分に認識されていないことが考えられる。
また、低学年では統一された英語教育と国際教養に焦点を当てる授業が充実しており、英語力の質的向上が期待できるが、専門性の高い高学年の授業は学部や学科ごとの差が大きい。留学を経験した本学学生からは、帰国した後も勉強や研究などさまざまな場面で英語を活用し、本学の授業や留学先で身に付けた能力を維持したいとの声が上がっている。