【研究成果】ナノロボットを開発
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ナノ粒子にウイルス由来のペプチド(短いタンパク質)を8個付着させることによって、粒子に細胞内に自ら侵入していくナノロボットとしての性質を付与できることを、東北大学病院の鈴木康弘講師らの研究グループが発見した。薬剤分子などを細胞内へ輸送する手段として、応用が大いに期待される研究結果である。
細胞内へ高分子(大きな分子)を導入する手法については世界中で研究が行われてきた。細胞の内外は細胞膜で隔てられており、通常、大きな分子はほとんど細胞内に入らない。そのため、研究や治療のためにタンパク質などの高分子を細胞内へ輸送する手段が長く求められてきた。
今回の研究で用いられたペプチドは、タンパク導入ドメインと呼ばれる、タンパク質に細胞内へ侵入する性質を付与するとされる10~20アミノ酸の配列を用いたものだ。これまでこの配列を利用した細胞内輸送法が研究されてきたが、輸送効率が十分でなく、狙い通りに高分子を細胞内に輸送できないことが難点だった。また、細胞内に侵入するメカニズムも不明だった。
今回の研究ではそのメカニズムを明らかにするために、蛍光物質としての性質を持つ半導体ナノ粒子「量子ドット」にタンパク導入ドメインペプチドを付着させ細胞に滴下し、個々の粒子が細胞膜に付着してから内部に侵入していくまでの動きを特殊な顕微鏡で観察・追跡した。その結果、タンパク導入ドメインをもつタンパク質が細胞内へ侵入するメカニズムの詳細が明らかになった。細胞に滴下されたナノ粒子は細胞膜に付着し、局所刺激を引き起こして細胞膜上を一定方向にしばらく移動したあと、膜上の特殊な部分から細胞内へのさらなる局所刺激を引き起こす。すると細胞はその周囲の細胞膜を小胞として引き込み(エンドサイトーシス)、それと共にナノ粒子は細胞内へと侵入する。この反応は細胞に付着させるナノ粒子の数が数個でも数千個でも全く同等に起こる。これは、細胞表面を移動し細胞内へ侵入するナノロボットとしての性質を、各粒子が独自に獲得しているためだ。また、ナノ粒子1個の上に8つのペプチドを付着させると最も効率よく細胞内に侵入することも明らかになった。
今回の発見は様々な応用可能性を秘めている。タンパク質の細胞内輸送はこれまで難しいとされてきたが、タンパク質をナノロボット化すれば細胞に滴下する操作のみで細胞内に直接導入し働かせることができると考えられる。これは量子ドットやナノ磁性体についても同様である。細胞内部の生体分子を量子ドットで標識して観察したり、特定の細胞小器官に付着するナノ磁性体で細胞小器官を移動させてその影響を観察したりすることなど、従来では不可能だった実験を行えるようになると期待されている。加えてナノ磁性体は、外部からの操作でガン細胞を死滅させる発熱体としての利用も可能かもしれないそうだ。また、カプセル状のナノ粒子に様々な物質を詰めて細胞内へ導入することも考えられている。そのひとつが薬剤である。これまで細胞内に薬剤を届けるには、細胞外における薬剤濃度を上げて浸み込ませる必要があった。しかし今回の手法を用いれば、ナノ粒子が濃度によらず自ら細胞内に侵入していくため薬剤濃度の上昇を回避でき、それに伴う副作用を軽減できると考えられている。このように、細胞内への輸送手段が確立されれば様々な応用が可能となる。
しかし、課題もある。今回の手法ではナノ粒子は静電気力で細胞膜に結合するため、実際に生体に注射すると血液中の成分によって結合が阻害されてしまう。また、薬やガン殺傷ナノ粒子を運ぶとなれば標的の細胞や器官にのみ結合する性質も必要になる。鈴木氏は、これらの課題はペプチドの改良によって数年程度で解消され、マウスなど動物での実用化が一気に近づくだろうと話す。様々な応用に向け今後も注目の研究である。
細胞内へ高分子(大きな分子)を導入する手法については世界中で研究が行われてきた。細胞の内外は細胞膜で隔てられており、通常、大きな分子はほとんど細胞内に入らない。そのため、研究や治療のためにタンパク質などの高分子を細胞内へ輸送する手段が長く求められてきた。
今回の研究で用いられたペプチドは、タンパク導入ドメインと呼ばれる、タンパク質に細胞内へ侵入する性質を付与するとされる10~20アミノ酸の配列を用いたものだ。これまでこの配列を利用した細胞内輸送法が研究されてきたが、輸送効率が十分でなく、狙い通りに高分子を細胞内に輸送できないことが難点だった。また、細胞内に侵入するメカニズムも不明だった。
今回の研究ではそのメカニズムを明らかにするために、蛍光物質としての性質を持つ半導体ナノ粒子「量子ドット」にタンパク導入ドメインペプチドを付着させ細胞に滴下し、個々の粒子が細胞膜に付着してから内部に侵入していくまでの動きを特殊な顕微鏡で観察・追跡した。その結果、タンパク導入ドメインをもつタンパク質が細胞内へ侵入するメカニズムの詳細が明らかになった。細胞に滴下されたナノ粒子は細胞膜に付着し、局所刺激を引き起こして細胞膜上を一定方向にしばらく移動したあと、膜上の特殊な部分から細胞内へのさらなる局所刺激を引き起こす。すると細胞はその周囲の細胞膜を小胞として引き込み(エンドサイトーシス)、それと共にナノ粒子は細胞内へと侵入する。この反応は細胞に付着させるナノ粒子の数が数個でも数千個でも全く同等に起こる。これは、細胞表面を移動し細胞内へ侵入するナノロボットとしての性質を、各粒子が独自に獲得しているためだ。また、ナノ粒子1個の上に8つのペプチドを付着させると最も効率よく細胞内に侵入することも明らかになった。
今回の発見は様々な応用可能性を秘めている。タンパク質の細胞内輸送はこれまで難しいとされてきたが、タンパク質をナノロボット化すれば細胞に滴下する操作のみで細胞内に直接導入し働かせることができると考えられる。これは量子ドットやナノ磁性体についても同様である。細胞内部の生体分子を量子ドットで標識して観察したり、特定の細胞小器官に付着するナノ磁性体で細胞小器官を移動させてその影響を観察したりすることなど、従来では不可能だった実験を行えるようになると期待されている。加えてナノ磁性体は、外部からの操作でガン細胞を死滅させる発熱体としての利用も可能かもしれないそうだ。また、カプセル状のナノ粒子に様々な物質を詰めて細胞内へ導入することも考えられている。そのひとつが薬剤である。これまで細胞内に薬剤を届けるには、細胞外における薬剤濃度を上げて浸み込ませる必要があった。しかし今回の手法を用いれば、ナノ粒子が濃度によらず自ら細胞内に侵入していくため薬剤濃度の上昇を回避でき、それに伴う副作用を軽減できると考えられている。このように、細胞内への輸送手段が確立されれば様々な応用が可能となる。
しかし、課題もある。今回の手法ではナノ粒子は静電気力で細胞膜に結合するため、実際に生体に注射すると血液中の成分によって結合が阻害されてしまう。また、薬やガン殺傷ナノ粒子を運ぶとなれば標的の細胞や器官にのみ結合する性質も必要になる。鈴木氏は、これらの課題はペプチドの改良によって数年程度で解消され、マウスなど動物での実用化が一気に近づくだろうと話す。様々な応用に向け今後も注目の研究である。