【研究成果】有限長カーボンナノチューブの合成に成功
https://ton-press.blogspot.com/2013/08/blog-post_9247.html?m=0
本学原子分子材料科学高等研究機構・大学院理学研究科化学専攻の磯部寛之教授らの研究グループが、顔料を原料としたこれまでで最長となる有限長カーボンナノチューブ分子の製造法を開発した。この成果は分子性物質として扱うことのできるカーボンナノチューブを大量に合成することを容易とし、更に関連研究から量産型ナノテクノロジーの実現に進歩をもたらした。
カーボンナノチューブとはダイヤモンド・非晶質・黒鉛・フラーレンに次ぐ5番目の炭素材料であり、黒鉛シートが筒状に丸まった構造が最大の特徴である。その電気的・機械的・化学的特性は、チューブの丸まり方・太さ・長さ・端の状態によって決まる。特に、これまでカーボンナノチューブの長さについての議論や研究はほとんどなされていなかった。このため丸まり方が一義的に定まったカーボンナノチューブは存在しておらず、元素組成・構造・長さの定まった分子性物質としてのカーボンナノチューブは存在しなかった。
今回、磯部教授らは合成の簡易化にアンタントレン(クリセンにベンゼン環が2つ付いたもの)を用いることで、簡便な合成ができるのではないかと考えた。そこで、アンタントレンの一部の水素に臭素が置換したジブロモアンタントレンが赤色顔料Pigment Red 168に含まれていることに注目。これを用い、カップリング反応を活用したボトムアップ化学合成(注1)を行うことで、3種類ある有限長カーボンナノチューブの型のうち2種類を合成することに成功した。またこの方法により0.75ナノメートルの有限長カーボンナノチューブ分子が登場し、単位長である0.25ナノメートルの三倍長の世界最長記録を分子性物質として実現した。
また磯部教授らは、有限長カーボンナノチューブ分子を外枠として、その空洞部分にC60フラーレンを置くと、置かれたフラーレンが回転子(こま)として回り出すことを発見している。このような外枠の中で回転子が回る機械は一般に「ベアリング」と呼ばれるが、このベアリングの外枠が極限まで小さくなると、回転時に摩擦がほとんど生じない。つまり内部のこまの回転にエネルギー損失が伴わない、「無摩擦のベアリング」とも言える夢のような分子機械が実現する。教授は「例えば回転子として磁場を発生させる物を用いれば、摩擦のないモーターだって作り出せるかもしれない。有限長カーボンナノチューブ分子は夢のある物質だ」と語る。
今後の展望としては、「更に長い有限長カーボンナノチューブ分子の合成」や「C60フラーレンの代わりにC70フラーレンを回転子として用いたり、C60フラーレンの中にリチウムや水分子などを入れたりして、多様なベアリングを作り出すこと」が挙げられている。未だ明かされていない性質の解明作業や応用研究の更なる進展が期待される。
注1…小さな構造体を組み合わせることで大きな構造体を作り上げる化学合成のこと。