講演「ヒッグス粒子を超えて」開催
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5月19日、仙台市シルバーセンターにて、元東北大学准教授、北野龍一郎博士による講演が行われた。題目は「ヒッグス粒子を超えて」。会場には学生を中心に多くの人が訪れた。
2012年7月、全世界で話題となったヒッグス粒子は物質に質量を与えることから「神の粒子」と呼ばれる。この粒子の存在が初めて提唱されたのはおよそ50年前で、現代素粒子物理学の基礎理論である標準理論にも含まれる。ヒッグス場(後述)は宇宙空間のいたるところに満ちており、他の素粒子の運動を邪魔する。これが質量の起源とされている。
宇宙に存在する物質の最小単位がクォークやレプトン、ゲージ粒子などの素粒子であることは以前から知られており、現在までに16種類が発見された。ヒッグス粒子は未発見の17個目であり、昨年スイス・ジュネーブにあるCERN(欧州原子核研究機構)の保有するLHC(大型ハドロン衝突型加速器)によって検出されたとされ、現在詳細な分析が行われている。
素粒子物理学において、素粒子とは物質ではなく、場(空間上のあらゆる点において値や向きを持つもの)として認識されている。つまりヒッグス粒子とはヒッグス場の値が局所的に変化した状態のことであると北野教授は説明する。
ヒッグス場という概念を導入し、次に物理学者が着手したのはヒッグス場の値やヒッグス粒子の質量の算出であったが、従来からヒッグス場と量子論の相性は悪く、素粒子としてのヒッグス粒子の存在は不自然なものとされていた。そもそも標準理論では、宇宙に充満しているといわれる暗黒物質や、物質と相反する存在である反物質が消えた謎を完全に説明することができないのだ。
そこで標準理論に代わる新たな基礎理論として注目されているのが、北野教授らが研究している超対称性理論である。この理論は量子論と矛盾しない特殊相対論の唯一の拡張であるとされ、超空間及び超粒子という概念を用いる。それによって標準理論で説明できる限界を打破できると考えられている。
しかし、超対称性理論はまだまだ発展途上であり、なにより実証実験の結果が不十分だ。そこで北野教授が期待しているのは、現在新しく日本や欧州、北米が建設を競っているILC(国際リニアコライダー)である。日本では候補地として岩手県北上山地と、福岡県・長崎県にまたがる脊振山系が挙がっている。LHCが円型で陽子と陽子を衝突させるのに対し、ILCは直線型で電子と陽電子を衝突させるため、より正確な実験結果が得られるとされている。もしかすると暗黒物質が生成する可能性もあるという。
今回の講演で北野教授は、人間の探求心とそれを実験で実証する行動力に大変感心しており、「人間はすごい」としきりに述べた。人類の科学力の粋を集めたILCによってヒッグス粒子による質量の起源、果ては宇宙の起源が解明される日が近づきつつある。