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【受験生応援号2022】オフィスアワー ➂どうして多様性は守れなければならないのか

 「多様性」という言葉が話題になることが増えた。どうして多様性は守られなければいけないのか。多様性の一つである生物多様性について、生物多様性保全を専門とする東北大学大学院生命科学研究科の千葉聡教授に話を聞いた。(聞き手は田中芙郁)



―「生物多様性」はどうして大切なのですか

人によってさまざまな考え方がありますが、一般的には、「功利的価値」と「内在的価値」の二つが理由として挙げられます。「功利的価値」とは、人間の役に立つから価値があるということです。功利的価値の例として、資源や食料、薬品になる、生態系の安定、CO2の固定、温暖化の緩和、害虫の発生を抑えるなどがあります。「内在的価値」は、動植物には完全さや安定さ、美しさなど、守られるべき固有の権利があるとする価値観です。ビーガン(完全菜食主義)もこの延長です。


―生物多様性保全の基盤になる生態学とはどういう学問ですか

生き物と生き物の関係というミクロな視点、生態系全体でのエネルギーや物質の流れ方というマクロな視点、またそれらの相互作用を探求する学問です。例えば、小さい島では、川や湖などの水が無いため、多くの生物が海から海鳥が運ぶリンや窒素などの栄養に頼っています。しかし、クマネズミや猫などの外来種が入ると、海鳥を殺して物質やエネルギーの循環が壊れてしまいます。この仕組みを理解するのが生態学、外来種を駆除して元のサイクルに戻すことを考えるのが保全生態学です。資源の循環をミクロ、マクロの視点から捉える点は経済学と似ていますね。


―元の生態系が壊れるとなぜいけないのですか

進化の過程の中で種は失われるものだと考える古生物学者との間で大きく論争になっている問題です。生態学者としての答えの一は、一つは利用価値やまだ知られていない価値、経済学でいう「オプション価値」があるかもしれないからです。役割が分からない生物が絶滅するのは人類にとって大きな損失ではないか、ということです。もう一つは、生命が残す進化などに関する証拠がなくなるからです。地球に存在する生き物が持つ鍵によって、生き物がどう進化してきたのかという謎をひも解くことができます。


―先生ご自身は生物多様性の重要性についてどのように考えていますか。

私は守られるならばその理由はなんでもいいという立場です。医師が患者の命を救うことを重視する一方、患者自身の価値観にあまり踏み込まないのと同様に、生態学者として絶滅をどう最小化するかを考えます。理由は、多様性保全対策の中で、行政や市民を含めた利害関係者と合意形成をするときに、固い思想を持っていると、同じ目標であっても達成できなくなってしまいますし、科学が思想や非合理的な部分を排除するものだからです。

ただ、多様性の高さもいいことばかりではなく、生態系が不安定になる、集団の環境への適応が阻害されるといったデメリットがあります。ですが、多様性を保っている場合、環境の変化しやすいところでも集団がかく乱やプレッシャーに強くなります。人間の社会でいうと、考え方が似ている人の方が一緒にいて楽だけど、違う考え方の人の方が何かに気づいて失敗から守ってくれることもあります。小さなことを我慢してメリットに目を向けていけば、長いスケール、マクロな視点で見たときにきっといいことがあります。だから、残せるものは残した方が良いのではないのでしょうか。


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