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【漫画評】『響 小説家になる方法』 柳本光晴 小学館

 「俺は漫画の主人公にはなれない」。そう思ったのは私が高校3年の時、引退試合として出場した卓球新人戦の1回戦で散々な負けを喫した時のことだ。相手はどこかのクラブチームに所属する中学生か小学生の子どもだった。自分は主役ではない。引退試合でいつもの試合よりも奮闘している同輩を横目に見ながら私は涙をのんだ。




 主人公はある目的を携え、さまざまな困難に立ち向かいながら目標を達成させる。そして迎えるハッピーエンド。脇役と違って彼らには照度マックスのスポットライトが当たり続けている。漫画に対する私の偏見は、何か自分の思い通りにならないときの嫌な感情をもやもやと膨らませた。

 『響』を読んでいると時々誰が主人公で誰が脇役であるのかわからなくなることがある。確かに物語は天才高校生作家、鮎喰響を中心に進んでいく。しかし物語の焦点は響だけに定まらない。同じく作家を目指すも響にはどうしても届かず嫉妬する友人、努力報われず日の光を浴びることのできない作家、納得いく文章を書けなくなったかつての天才。彼らには時として響以上の光が当たり、「鮎喰響」という物語に大きな影響を及ぼす。まさに小説のような細やかな描写、生々しい人間関係に読者の心をわしづかみにする。

 オリンピックでメダルを取る選手もいれば新人戦1回戦負けだっている。水谷隼に卓球選手としての経歴があるように、私にも6年間続けた部活動としてほかならぬ物語が存在する。先輩や後輩、そして同輩。自分を取り巻く人たち。彼らは時として長いセリフといつもより大きめのコマを与えられ、強いスポットライトを浴びる。そして物語に影響を及ぼす。

 小さな物語が寄り合って大きな物語をなす。それがオンリーワンの「私」をつくりあげるのだ。
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