【研究成果】肥満の遺伝 防ぐ仕組み解明 楠山助教らのグループ発表
本学学際科学フロンティア研究所新領域創成研究部の楠山譲二助教らの研究グループは4月11日、妊娠中の運動が子どもの肥満リスクを下げる仕組みを解明したとして、本学プレスリリースにて発表した。これまでも妊婦の肥満は、子どもに肥満や糖尿病の発症度を増加させることが報告されてきた。このリスクは子どもに生まれつきの健康格差を強いることから、社会的な重大課題の一つだと認識されている。
楠山助教らはこれまでの研究で、妊娠中の運動は子どもの肥満リスクを下げることと、胎盤から分泌される酵素、スーパーオキサイドジスムターゼ3(SOD3)が母親の運動情報を子どもに伝えていることを解明した。しかし運動による胎盤由来のSOD3が、妊娠中の肥満や高脂肪食の摂取による、子どもの肥満を防ぐことができるかは、未検証だった。
今回の研究は、主に妊娠中の運動によって胎盤から分泌されるSOD3の効果を解明したものだ。遺伝情報は、発現する部分としない部分に目印を付ける操作がされる(エピジェネティクス)。楠山助教らは、母親が高脂肪食を摂取している場合、胎児の糖代謝遺伝子においてエピジェネティクスの一つ(ヒストンメチル化)が不安定になることを解明した。
ヒストンメチル化のレベルが下がると、その遺伝子の発現は抑制される。このことから、妊娠中の高脂肪食摂取は、子どもの糖代謝遺伝子の発現を抑制し、子どもを太りやすい体質にさせると予想された。そこで楠山助教らは、そのメカニズムを解析。胎児の肝臓で上昇した活性酸素が、ヒストンメチル化酵素の機能障害を起こすことを突き止めた。このような悪影響は、妊娠中の運動によって、防げることも確認している。
次に楠山助教らは胎盤でSOD3が作れないマウスを用いた実験によって、妊娠期の運動効果が与える影響を解析した。その結果、胎盤でSOD3が欠失すると、運動効果が失われ、胎児の肝臓におけるヒストンメチル化の安定性も低下することが分かった。
またSOD3は活性酸素を除去する酵素として知られている。楠山助教らは既存の抗酸化剤を胎児の肝臓に注射して、胎盤のSOD3の効果を模倣できないか検証した。しかしSOD3を注射すると、胎児の肝臓の代謝が増強したにもかかわらず、抗酸化剤は同様の効果を示さなかった。このことから妊娠中の運動や胎盤のSOD3が特別な効果を持つと予想される。
楠山助教は、本研究に着手したきっかけを「現在、胎児期や生後早期の成育環境によって、将来の病気のリスクが決まるという説が知られています。今回は『運動』という、誰でも簡単に取り組めるものを利用して、この問題を実践的に解決していきたいと考えました」としている。これからの展望として、胎盤を通じた代謝以外の影響についても興味を持っていると説明。「子どもがより良い状態で、社会で活躍できる環境を整えることができれば」と語った。