【探訪】石ノ森萬画館を訪ねて ~震災と「マンガの力」~
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石ノ森萬画館は2001年、石ノ森氏が青春時代に足しげく通ったゆかりの地である石巻市にオープンした。館内には代表作である「サイボーグ009」をはじめ、「人造人間キカイダー」や「仮面ライダー」といった様々な作品のコーナーが設置された。個性豊かなキャラクターの等身大モデルや自筆の原画展示、さらには体験型アトラクションなど、石ノ森作品の魅力を「立体的」に体験できるように工夫されている。
常設展示以外でも、年に4~5回特別企画展示を行う。マンガやアニメ、アート等様々な切り口で展開し、リピーターの創出にもつながっているようだ。また企画展と連動したワークショップも開催。第一線で活躍するマンガ家の先生や声優の方々を招き、将来プロを目指す学生らが参加している。その他定期的に小さい子どもでも楽しめるオープンワークショップも行われる。
萬画館を運営している株式会社「街づくりまんぼう」の企画営業を務める本郷由華さんは「石ノ森作品に触れて育ってきた大人たちが、子供を連れて一緒に足を運んでくれる。仮面ライダーなど世代を越えて愛されている作品もあるので、幅広い世代のファンが楽しんでくれています」と話す。
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もちろん町おこしは萬画館の設立による石巻へのファンの呼び込みだけではない。最寄り駅である石巻駅から石ノ森萬画館までの通りは「いしのまきマンガロード」と名付けられ、石ノ森作品のキャラクターの像が立ち並び、地元の人や観光客の目を楽しませる。現在では石ノ森萬画館を訪れた観光客がマンガロード周辺の飲食店や宿泊施設を利用することで、石巻全体が活性化してきたという。「石ノ森作品をきっかけにして石巻を知り、好きになってくれたお客さんもいる。この石ノ森萬画館が石巻のにぎわいを創出する起爆剤になれば」と本郷さんは語った。
オープンから10年の節目を迎えた2011年、石ノ森萬画館に苦難の時が訪れた。東日本大震災である。石巻地区は地震による津波で大きな被害を受け、北上川の中州に建つ萬画館にも津波が到来した。幸いなことにスタッフと来場者はすぐに避難したため犠牲者は出なかったが、設備には深い爪痕が残ってしまった。1階天井付近まで浸水し、館内の電気・機械系統は大きなダメージを受けた。グッズショップの在庫もほとんど流出。過去にチリ地震による津波到来の経験があったため2階に集中させていた展示品は全て無事だったものの、開館が不可能な状況に陥ってしまった。被災直後、スタッフは全員解雇。しかし被災したままでは再開の見通しが立たないので、有志のスタッフによって館内外の清掃作業が行われた。
転機になったのは被災から2ヶ月弱の5月5日、こどもの日。石ノ森萬画館では例年ゴールデンウィークに、ヒーローショーや特別ステージイベントを行う「マンガッタンまつり」を催してきた。当初は震災後の混乱で開催が危ぶまれたが、「こんな時だからこそ、マンガッタン祭りで子供たちに明るい話題を届けたい」と決意。館内の復旧とイベントの準備を急ぎながら、近場の避難所を直接回って宣伝を行った。そして迎えたマンガッタン祭り当日。開催の噂が口コミで広まり、石ノ森萬画館はスタッフの予想をはるかに上回る6000人もの来場者で溢れかえった。シージェッター海斗のヒーローショーやボランティアから提供されたおもちゃの無料配布が行われると、訪れた子供たちは皆目を輝かせていたという。「石ノ森萬画館は、マンガの魅力で子供たちに笑顔になってもらう場所。子供たちの笑顔を見て改めて気づかされた」と本郷さんは振り返る。その後本格的な復旧工事を経て、震災から1年8ヶ月後の2012年11月17日に再開した。再開初日は天気が悪かったにもかかわらず4000人が詰めかけ、訪れた人たちからは「おめでとう」「待ってたよ」と祝福の声が上がった。
再開から現在(2014年9月末)まで、約40万人もの人たちが訪れたという。震災前と比べると、県外からの観光客が多いようだ。「再オープンがきっかけになって石巻に足を運んでくれている。応援してくれた皆さんに対して私たちができる恩返しは、ここで夢と希望を与えるマンガのちからで元気になって帰ってもらうこと」と本郷さん。石巻の完全な復興はまだまだ道半ばだ。「石ノ森萬画館は、石巻の街とともに復興をしていきたいです」と意気込みを語った。
世代を越えて愛される石ノ森ワールドの中心として、そして石巻の復興の象徴として蘇った石ノ森萬画館。北上川の流れに抱かれながら、今日も子供たちの夢と希望を発信し続けている。