【書評】『1984』 ジョージ・オーウェル
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戦争は平和なり
自由は隷属なり
無知は力なり
私たちはこのスローガンをはっきり否定することができるだろうか。
主人公・ウィンストンは、「ビッグ・ブラザー」率いる党の独裁体制のロンドンで暮らしていた。彼はある一片の紙から党の独裁に疑問を抱き始め、奪われた自由を求める。
党のスローガンは二律背反を受け入れさせることで、人々の思考を放棄させる「二重思考」に基づいている。党が2+2=5といえば、それは4ではなく5であることが強制され、4であることとの矛盾を前に思考を放棄させる。これによって党の体制がうまくいっていると思わせるのだ。
真実省記録局に務めるウィンストンは日々届く党からの「情報」を基に過去の記録を改ざんしていた。の実行によって自らが改ざんした記録が真実であると、矛盾を信じることを可能にし、仕事に取り組むことができるのである。
先般の参議院議員選挙ではSNSでの投稿や広告の効果を痛感した。その中で、各政党の方針、掲げる社会像と政策がいくつか矛盾するように感じることがあった。そのとき、党や政策を妄信するあまり、目指す社会への過程との間に生ずる齟齬の検討を放棄してはいないだろうか。SNSに起きやすいエコーチェンバーは「2分間ヘイト」のように、罵詈雑言が飛び交いやすい環境を形成している。
オーウェルは1903年に生まれ、1950年に没するまで、政治的な激動と技術的な革新を見てきた作家である。そんな彼が残した名著をぜひ手に取ってほしい。
(竹室斉紘)
ジョージ・オーウェル著・田内志文訳
『1984』、KADOKAWA/角川文庫
