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【研究成果】本学医学系研究科 PD悪化因子発見 ~病後の認知症予防に光~

本学医学系研究科高次機能障害学分野の森悦郎教授らのグループが、パーキンソン病における認知・運動障害の悪化に関連する因子を発見した。グループには東北大学病院高次機能障害科の西尾慶之講師や馬場徹助教、本学出身で県南中核病院研修医の庄司裕美子医師などが参加した。
パーキンソン病は高齢者に多い神経疾患の一つであり、手足が震える「震戦」や筋肉が固くなり動作が緩慢になる「固縮」などの運動機能障害を主症状とする。一方で、長期の経過で患者の8割が認知症を併発するといわれており、その危険因子は何かということに以前から注目が集まっていた。
本研究は53人のパーキンソン病患者を対象として行われた。認知機能の評価として用いられた方法は、パーキンソン病の患者および家族に対して行うインタビューや心理検査に基づいて行う臨床認知症評価尺度(CDR)。脳機能の測定には脳局所ブドウ糖代謝(*)を測定するFDG―PETという方法が用いられた。森教授らは患者をCDRの結果により図に示す5つの群に分けてFDG― PETにより各脳部位の機能状況を調べ、3年後に再び同様の検査を行って症状と機能状況の相関を割り出した。
調査の結果、大きく分けて3群と5群、2群と4群のそれぞれ二つの傾向がみられた。3群と5群の患者はいずれも調査開始時点で頭頂葉と後頭葉の機能が低下しており、3年後の認知機能および運動機能の悪化が重度だった。特に認知機能では記憶障害に加えて視知覚障害を生じる場合が多かった。3群と5群の患者では、5群の方が調査開始時に頭頂葉・後頭葉の機能がより低く、症状も重度であった。
一方で2群と4群の患者は内側側頭葉の機能が低下し、認知機能において記憶障害のみを持つという特徴を有していた。調査開始時点での記憶と局所ブドウ糖代謝は、2群ではパーキンソン病を発症していない場合と同じだったが、4群ではすでに記憶障害と内側側頭葉の機能低下がみられた。
以上の結果から、パーキンソン病患者に生じる認知機能の障害には二通りの要因が挙げられると考えられた。脳内で機能低下をきたす部位が頭頂葉・後頭葉である場合は記憶障害に加えて視知覚障害など他の認知障害を生じる。また部位が内側側頭葉である場合は、記憶障害のみを生じる。
今回の成果により認知や運動に関する機能障害と脳機能の以上の相関が現象として解明されたが、その分子レベルでの病態や予防の方法は明らかになっていない。森教授らは現在、西多賀病院ほか全国の研究機関と共同で、ブドウ糖代謝状況により認知機能障害について高いリスクを負うと分かった患者について薬を予め投与した場合としない場合で差があるかどうかを調査中だ。西尾医師は「何十年と先を見据えた治療は現時点では無理だが、数年先の認知症発症を見据えた治療は近々可能になるかもしれない」と将来へ意気込んだ。

(*)……ブドウ糖代謝状況は、脳内で機能が低下している部位を突き止めるのに有効な指標となる。


グループの一員である庄司医師は本学医学部3年次の基礎配属から森教授の研究室へ配属された。当時は基礎配属の制度上、高次機能障害学といった臨床系の研究室へ入ることはできないとされていた。しかし庄司医師は「脳や心に関わることがしたい」という興味の強さからメンバー入りを熱望し、教授らを説得。配属後、研究室で既に始まっていたパーキンソン病の調査研究に携わり、学部5年次にはダブリンで開かれた国際学会で中間発表を行った。今回の成果は庄司医師の卒業論文となるものだ。医師は「無理を言ったが、受け入れてもらいこういった大きなテーマに携わることができてよかった」と顔をほころばせる。本学の掲げる「研究第一」という理念の通り、環境はとてもよかったという。医学部では現在、基礎配属でもある程度臨床系の研究室を志望することも可能になっている。取材に同席した西尾医師は、「研究に興味を持つ学生は減ってきている。楽しみを知り、興味を追う学生が増えれば」と語った。
研究成果 5922294623619493291
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