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【書評】『四畳半神話大系』 森見登美彦 角川文庫

 大学生活は、中学高校に比べて格段に自由である。サークル、授業、アルバイトなどにおいてさまざまな選択肢が与えられている。入学当初は、大学生活はさまざまな可能性に満ちていると感じるかもしれない。しかし、少なからぬ学生が数年後、入学時思い描いていた自分と現実の自分との食い違いを感じることになるだろう。




 本書は4話構成で、京都の大学に通うさえない大学3回生「私」が平行世界の各話でそれぞれ違った大学生活を送る物語である。「私」は入学当初は「バラ色のキャンパスライフ」を求めて各話違ったサークルや組織に加入する。後輩の明石さんに心惹かれながらも、有意義な生活を送ることに失敗し、悪友小津の悪巧みに翻弄され、8回生の樋口師匠の意味不明な修行に付きあわされる。

 もっと有意義な学生生活を送る可能性があったはずだと悔やむ「私」に樋口師匠はこう諭す。「自分の可能性という当てにならないものに望みを託すことが諸悪の根源だ。今ここにある君以外、ほかの何者にもなれない自分を認めなくてはならない。」「腰の据わっていない秀才よりも、腰の据わっている阿呆の方が、人生を有意義に過ごすものだよ。」

 「私」が軽蔑してやまない悪友小津は、無意義な悪戯を力いっぱいはたらくことで、現実を嘆くばかりの「私」より有意義な生活を送っている。自分の理想と現実が乖離しても、ありえたかもしれない可能性に踊らされるのではなく、自らの現状を受け入れ「腰の据わった阿呆」になることが必要なのではないだろうか。
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