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【インタビュー】人文学的アプローチで防災を 本学災害研 栗山進一新所長

メディアや教育などを活用 防災意識改革・行動変容促す


 本学災害科学国際研究所の栗山進一教授(災害公衆衛生学分野)が、4月1日に同研究所の所長に新たに就任した。同月6日に開かれた就任会見で語った抱負や、学問としての確立を目指す防災コミュニケーション学、専門の災害公衆衛生学について話を聞いた。



防災意識薄い層へ 効果的な働きかけ


 栗山所長は就任会見の際、「防災コミュニケーション学」を学問として確立させる考えを示した。この学問は主に、防災への意識や関心の薄い層がターゲット。災害に関する科学的データの提示に加え、メディアや教育などの人文学的アプローチも繰り返し行い、無関心層の防災意識改革と行動変容を効果的に働きかけるという内容だ。


くりやま・しんいち
1962年、大阪府生まれ。87年に本学理学部、
93年に大阪市立大学医学部を卒業。
同大学医学部附属病院医師、民間医師を経て、
2010年に本学医学系研究科環境遺伝医学
総合研究センター分子疫学分野教授、
12年に本学災害科学国際研究所
災害公衆衛生学分野教授となる。
今年4月1日から同研究所所長を務める。
 


 人文学的アプローチのアイデアとして栗山所長は、「アニメやドラマを使った教育を行ったり、ロールプレイングゲーム(RPG)を作ったりすると面白いかもしれない」と語った。東日本大震災の際、津波警報発令後に逃げなかった人が死者数の約4割を占めた。このデータをもとに、「津波警報後に逃げなかったために、亡くなってしまうといった演出をアニメやドラマに含め、津波災害への意識と行動の変容を促す」ことを期待する。



 RPGも同様に、津波警報発令時に逃げるか否かの選択に加え、例えば家の耐震化や家具の固定、感震ブレーカーと消火器の設置の選択を設ける。防災に無関心な層に、津波と地震への備えの必要性を自然な形で認識してもらう狙いがある。



誰一人取り残さず 避難するためには


 防災コミュニケーション学は、栗山所長の専門である災害公衆衛生学と強くリンクしている。災害公衆衛生学とは、今後起こりうる災害に向けて、全ての人に備えてもらうよう働きかける方法の探究や、災害発生後に誰一人取り残さずに避難する「インクルーシブ防災」などに関する学問だ。



 「インクルーシブ防災において最も考慮すべきは、身体的ないし精神的障害により、自力で逃げられない人の存在だ」と栗山所長は言う。自力で逃げるのが困難な人々の避難をどう支援するか、必要な配慮は何か、などについてあらかじめ記載したものを個別避難計画と呼ぶ。インクルーシブ防災実現のためには、個別避難計画の立案から作成の過程が重要となる。



これからの被災地復興への取り組み


 栗山所長は自身が考える復興を「Build Back Better(より良い復興)」だと語った。Build Back Betterは2015年3月、第3回国連防災世界会議で採択した仙台防災枠組で定義された考え方。災害前の状態への復帰に加え、コミュニティー連携や災害への備えを強化し、災害発生以前よりも災害リスクを減らすことを目指す。



 Build Back Betterに向けた必要事項の一つとして栗山所長は、「2040年問題」(注)の解決を挙げた。高齢者コミュニティー形成が困難なため孤独死や健康悪化が起きたり、若者の減少により産業の発達速度が遅くなったりする問題が、被災地では起きていると栗山所長は語る。被災地でのコミュニティーの再形成と産業の再興により、災害リスクの削減と被災地の活気回復を目指す。



 抱負として栗山所長は、物理的な災害対策やインフラ整備だけでなく、「防災コミュニケーション学やBuild Back Betterを通じた、人間の行動変容を促しインクルーシブ防災の実現を目指す」と語った。災害自体に関する自然科学的な研究に加え、人々の防災意識や災害時の行動を変える人文的方法の研究の発展が期待される。



(注)2040年問題
 日本で人口減少と少子高齢化が進み、2040年に表面化するとされる社会問題の総称。

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