【研究成果】緊急時特化の人工心臓開発 3分以内の血液再循環を 迅速かつ確実な回復目指す
本学加齢医学研究所は、緊急時の使用に特化した人工心臓による補助循環システムの開発を進めている。血液を通すカニューレと人工心臓を一体化し、必要操作を最低限にしたもので、ガイドワイヤーを活用してすぐに心臓に接続できるようになっている。緊急時には臓器の機能回復を左右する指標となる3分以内に血液を再循環させることを目標としている。
開発中の人工心臓のサンプル。小型化の目標は現在の4分の1ほど |
従来、人工心臓は長期的な補助循環を目的に開発されており、小型化や長寿命化などの研究が行われてきた。そのため、現在緊急時に使用されている人工心臓も長期的な補助循環が目的とされたものであり、操作や機能、サイズなどが使用状況に合わせて最適化されていない。緊急時使用に特化し、単純機構化することにより、カニューレと人工心臓の接続や動力源の確保などの時間を短縮するとともに、人的ミスによるリスクを最小限に抑えることが期待されている。
心臓停止時の措置としては他に心臓マッサージやAEDの使用が挙げられる。しかし心臓マッサージは基本的に延命措置で全身の臓器への血液の循環は期待できず、AEDは心臓が電気的要因によって停止し物理的損傷がない場合にのみ使用可能である。人工心臓による補助循環システムはそれらの欠点をカバーしており、外部から第2の心臓として強制的に血液を循環させる。そのため、一時的な回復措置として幅広い使用が見込まれている。
身体の負傷による血管の損傷時など、一時的な血管の代替としてへの応用も期待されている。血管へ比較的容易に接続できる機構や心臓機能を活用し、緊急時には損傷した血管の代わりとして臓器に血液を送る使用法も考慮しながら開発が進められている。
基本的な機能の開発は完了しており、現在は血液を通すカニューレ二つの間に回転して血液を送るポンプとその動力が接続されている。今後は必要な血液循環量などを考慮しつつ、緊急時に必要な機能に合わせて小型化や使いやすさ、量産性を突き詰めていく。近年には血液学分野において血中タンパク質の新たな性質が発見されており、血液の取り扱いに対しても慎重な姿勢でリスクを減らしていく方針だ。
開発完了後は臨床試験を通過した後、装置の取り扱い講習を受けた技師から使用が可能となる。将来的には心臓が損傷する事故や事件の際も患者を救命できるシステムの社会実装を目指す。