【インタビュー】古典 数学 高校で学ぶ意義とは
高校では幅広い内容を満遍なく学ぶ。ただ、授業で興味関心が全く持てず「試験のため」だけに学ぶ内容もあるのではないだろうか。「なぜこんなものを学ぶのか」。今回は、そういった問いを特に持たれやすいかもしれない数学と古文に焦点を当て、学ぶ意義を文学研究科の佐倉由泰教授と山内卓也准教授に話を聞いた。(聞き手は渡辺湘悟)
さくら・よしやす
本学大学院文学研究科日本文学講座に所属。研究分野は日本文学(主に中世文学、軍記物語)
【古文】
―古典の研究方法は
私たちの日本文学研究室では古典文学と近現代文学を特に区別せず、日本の文学を幅広く研究しています。研究では、作品の内容を理解することとともに、作品の魅力や特質に気づいて、どのような表現がその魅力や特質を生んでいるのかを掘り下げて考えることを大切にしています。
―漢文と古文の関係は
「漢文なくして古文なし」と言えます。「仮名(かな)」に対し、漢字を「真名(まな)」と呼びますが、これは本当の字という意味で、「仮名」とはまさに仮の字なのです。それほど漢字、漢文は重要で、中国の漢文を離れた独特な漢文(日本式の漢文)も盛んに使われました。一方、平仮名は、特徴のある字体で書かれて、読みづらく、そのため読みやすい片仮名が生まれました。現代の私たちは、平仮名の多い和文は親しみやすく、漢文は難しいと考えますが、近代よりも前は、そう思わない人も多かったはずです。
―「古典を高校で学ぶ意義はない」との意見には
よりよく物事を思い考えることがよりよく生きることになると考えるならば、古文はとても有意義です。古文に限らず、分かると思っていたことが分からなくなるのは、学問の重要な出発点ですが、古文には、時代を超えても分かる伝統文化としての側面と、環境の違いから理解が難しい異文化としての側面があります。この伝統文化でもあり、異文化でもある古文は、新たな思考に出会う可能性に満ちています。
―社会や大学で古文を使わない人もいる
思考の場には言語が介在します。そうした言語のうちでも、縁遠いのに身近に感じられ、身近なようで分からないことが多い古文、漢文は、現代文や、母語以外の言語とはまた違った形で、言葉というものの大切さと魅力と難しさを教えてくれます。その意味でも、古典を学ぶ方がよいと思います。
―今後古文や人文学を学ぶ上で
物事のさまざまな分からなさに気づけるといいです。物事が分からなくなることも重要な発見です。一旦理解できなくなっても、別な次元や視点から捉えて分かるようになれば、喜びもひとしおです。物事の分からなさを尊重して、自分から進んで、読み、学び、考えることが大切です。
やまうち・たくや 本学大学院理学研究科数学専攻代数学講座に所属。専門分野は整数論、数論幾可、保型表現 |
【数学】
―研究の進め方は
数学の研究者は理論を作るのが得意な方と数学の問題を解くのが得意な方に分かれている様に思えます。数学の理論というのは例えば、素数の分布や雲の動きに関するもの等々さまざまですが、それらは万人に使える精妙な言語で記述されていなければなりません。その言語のことを我々数学者は概念と呼びます。我々は様々な数学的現象を記述する精妙な概念を探しているのです。そして、それらを用いて数学の問題を解決するのです。ただ、ここでいう解決というのは、ただ問題を解くのみならず意義・意味なども含めて論じられることが多いです。
―数学の魅力は
誰であれ証明すればその事実は揺らがないため、学者間であまり上下関係がないことが魅力の一つです。年齢に関係なく誰であっても一人の数学者として認められます。
―高校では数学が必修となっているその意義は
この問いは今も昔も変わらず続いているようです。古い数学の教科書の序言をみると中には、学生が数学に「興味がない」「面白さが分からない」と憂いている文があります。さらに国内のみならず、海外の学生の間でも、学ぶ分野の必要性が分からないという声があるそうです。学ぶ内容に意義が見出せない、という問題は、全世界で昔から続く話題ではないでしょうか。
しかし数学者として長く数学に携わっていると、一見すると数学には関係ない分野が役立つことを感じる時があります。一方、数学とは一見無関係なところでは、歴史の知識は海外で雑談する時に役に立つこともあります。また、国語の能力は解説記事を日本語で執筆する際に役に立ちます。私の知り合いの古文書を扱う研究者は当時その場で扱われていた数学の概念から文書の時代背景を推測するそうです。 「役に立たない」と文句を言うだけでは何も進みません。学習しないと「役に立たなかったな」と納得すること自体できないと思います。
―高校で履修した範囲すべてを使うわけではない
数学のある特定の限られた分野だけを学ぶ事は、その分野が上手くいかなかった際分野を変更する際のリスクが大きい。そもそも何が役に立つかなんて前もって明確には分かりません。そんなことがわかるであれば、この世界は至極簡単なものであり、つまらないでしょう。勉強する範囲が多いのも事実ですが満遍なくやれば失敗しても他の分野に移ることもできます。自身に直接関わることでなくても時間を無駄にしたと考えるのでなく、「この分野は自身には必要なかったなぁ」そう判断することも、自身のみ感じる一つの理解の到達点と考えると良いかもしれません。「意義がない」と学ぶことを憎んだりせず、今は頑張って学習してほしいと感じます。
―今後数学を学ぶ上で
簡単な本でもいいので、自分に合う一冊を見つけ、きっちり読み切ることが大切です。行間を一行一行読み解きながら「やりきる」ことで、自信がつき、継続力・思考力を養うことができると思います。