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【ネタ記事】24時間耐久読書リレー

 大学生の春休みは長い。2月の頭から4月の初めまでをかなり自由に使えるので、せっかくだから有意義な活動に費やしたいものだ。……なーんて思っていたらあっという間に3月末。周りの友達が海外旅行やバイトなどの精力的な活動に勤しんでいた一方で、筆者がやっていたことと言えばゲームか睡眠か編集作業だ。このまま新学期に入ってしまうと自分の面子が立たない。「せっかくの春休みに何もしなかったのー? ありえなーい! 冗談は顔だけにしてよねー(笑)」とか言われてしまうかもしれない。これはマズイ、どげんかせんといかん――そんな筆者が思いついたのは「読書」である。本は知的好奇心を刺激してくれる宝石がつまった宝箱だ。本をできるだけたくさん読めば、周りの友達が春休み中に味わった貴重な体験と同じくらい素晴らしい何かと出会えるはずだ。かくして筆者の読書大会はスタートした。いつのまにか企画名が「24時間耐久読書リレー」というおぞましいものに変わってしまったが気にしない気にしない。     



 ルールは簡単! 部員が持ち寄ってくれたオススメの本を1冊3時間程度で読破していく。それを24時間ぶっ続けで進行するのだ。もちろん居眠りは許されないし、食事も読書の空き時間で済まさなければならない。知的好奇心の宝箱がミミックになって襲いかかってきそうな企画だが、自分の面子を守るためなら何だってしてやる。かくして読書リレーはスタートした。

 午後1時、報道部室。いよいよ企画が始まったので、とりあえず部員が持ち寄ってくれた本をざっと眺めてみた。孔子の「論語」、福永文夫著「大平正芳」、浜口雄幸著「随感録」……ずいぶんといかめしいタイトルが並んでいる気がする。読みやすいライトノベルとか恋愛・娯楽小説とか持ってきてくれないんですかね。これらを一睡もせずに読まなければいけないのかと思うと少しめまいがするが、部員の「辛くないとエンターテイメント性が出ないでしょ(笑)」の一言で自分を奮い立たせた。まずは一番辛そうな論語から片付けることにする。古典の教科書でおなじみの論語であるが、こうやって全編を読んでみる機会はあまりない。この論語は白文・書き下し文・日本語訳の3パートに分かれていたのでかなり大変だったが、まだ余裕のある集中力を使って読み進めた。チョイスした理系読書家のM曰く「『文字を読む』と『文字を眺める』って全然違うよね? 違うよねえ(笑)」とのことなので、わりとしっかり読めた気がする。孔子には高潔な文人というイメージを抱いていたが、論語を読む限り案外適当で人間くさい所もあったようだ。

 午後6時半過ぎ。早速多少の眠気に襲われたものの、無事に論語と本田健著「10代にしておきたい17のこと」を読破し、いよいよO編集長チョイスの一品「大平正芳」に取り掛かる。かつて総理大臣として日本の舵取りを行った大平氏(O編集長は大平氏が大好きである)の足跡を辿る形式の本著もなかなか興味深いものだった。決して派手な政治手腕でないが、実直なところに惹かれるものがある。自分もこういう生き方をしてみたいな――そんなことを考えていた午後8時過ぎに事件が起こった。突然部員のKが「バイトの先輩からガ○ダムユ○コーンのDVD借りてきたから上映会やろうぜ!」と部室になだれ込んできて、あろうことか読書中の私の横でガ○ダムを鑑賞しだしたのだ。筆者はガ○ダムファンの端くれなのでユ○コーンにも非常に興味があったのだが、もちろんリレー中の身であるため上映会に加わることは許されない。見たいけど見られない。筆者に許されたのは画面から聞こえてくる音声部員たちの歓声を聞くことだけだ。このような状況を生き地獄と言うのではないだろうか。Kを問い詰めると「知っててやった。辛くないとエンターテイメント性が(以下略)」と答えやがった。Kサーン! オンドゥルルラギッタンディスカー! ユ○コーンの上映会が終わると逆襲の○ャアの上映会、さらに横では飲み会まで発生した。大平さんには悪いが、全く集中できないまま夜が更けていく(でも正直ガ○ダムはチラチラ見てました。ごめんなさい)。

 丑三つ時・午前2時。悪夢のような上映会も終わり、飲み会のメンバーも部室から退散していった。再び静寂を取り戻した部室の中でひたすらページをめくる。「休憩がてら読める本だよ」と慈悲をかけてくれたRの「偏差値70の野球部 難関合格編」(松尾清貴著)を1時間の好タイムで読破し、Kが置いていった「随感録」もなんとか読み切ったところで遂にヤツが現れた。睡魔である。おまけに読み始めたのはSが「お前文系だけど、そんな本で大丈夫か?」と心配してくれた「元素111の新知識」(桜井弘編)。最初は水素、ヘリウム、窒素、酸素などのおなじみの元素が並んでいたので「大丈夫だ、問題ない」とスラスラ読めたが、後半にさしかかると未知の元素(筆者にとって)がわんさか登場。ボーリウム、ハフニウム、タンタル、ラザホージウム、アスタチン、メンデレビウム……。大丈夫じゃない、問題だ。気が付いたら同じページを何度も行ったり来たりしていたり、何度も意識が飛んだり、果ては自動販売機相手に「一番良いコーヒーを頼む」と話しかけたりしてしまった。大量のコーヒーに助けられながらちまちま読み進めたが、やはり大苦戦。読破に4時間もかかってしまった。

 そして、午前6時半。遂に朝日が昇り始め、読書リレーは最終レーンにさしかかった。部員が持ち寄ってくれた本は全て消化したので、最後は筆者セレクトの本に取り掛かる。まずは物理学者が犯罪トリックを物理学で解明していく東野圭吾の人気シリーズ「ガリレオ8 禁断の魔術」。体力と集中力は消耗しているが、推理小説を愛する筆者の敵ではなかった(キリッ)。そして最後の8冊目として立ちふさがったのはハーバード大の名教授、マイケル・サンデル氏の講義録「これからの『正義』の話をしよう」(鬼澤忍訳)。正義とは何か、そしてそれにまつわる功利主義等の考え方を例えを交えて分かりやすく説明する名著であったが、正直その時の筆者の頭には全く入っていなかった。例えるなら最終回でラスボス相手に相討ち覚悟で「うおおおおおおお!」と雄叫びを上げながら突っ込んでいく主人公の心理状態であったのだ。厚みのある本なので撃破もとい読破には時間がかかったが、制限時間である午後1時の30分前に間に合った。余った時間は岡嶋二人の「七日間の身代金」を読んで処理し、筆者の読書リレーは無事フィナーレを迎えた。

 終ってみて思ったのは、やっぱり読書を苦行として処理するだけの作業にしてはならないということだ。本を読むときは誰にも邪魔されず自由で、何というか救われた心境で読まなくてはせっかくの知的好奇心の宝石もただのキャラメル同然だ。読者の皆さんにはぜひ余裕を持った楽しい読書をおすすめする。そして願わくばこの記事を読んだ学生の皆さんが(新入生か否かは問いませんよ)「学友会報道部、面白そうじゃん!」と興味を抱いてくれること、そして出会いの春に我がサークル部室のドアを叩いてくれることを期待して筆を置くことにする。……もちろん新入部員にこんなマゾ企画はやってもらわないので、ご安心を。
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