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最高裁、婚外子違憲判決 ~法学研究科・水野教授に聞く~


 平成25年9月4日、最高裁大法廷は全員一致で民法900条4号但書前段(*)の規定が憲法14条1項に違反すると判示した。

 本件は、亡くなった人に嫡出子(法律上の婚姻関係にある夫婦間に生まれた子)と嫡出でない子(婚外子、法律上の婚姻関係にない男女間に生まれた子)がいた場合、後者の相続分は前者の2分の1とするという民法上の規定は憲法に定める「合理的理由のない差別の禁止」に違反しているとの違憲決定である。

 今回の判決に関して、日本家族法分野における第一人者、東北大学大学院法学研究科水野紀子教授にお話を伺った。



―この問題に関して、私は合憲説の立場をとりながらも、立法による対策が必要であるとの主張をしてきました。今回、最高裁で違憲決定がでることは予想していましたが、全員一致であったことに驚きました。同様の婚外子相続分差別違憲問題については平成21年にも最高裁で取り上げられていたのですけれど、反対意見がありながらも法廷意見は合憲であるとの判示でした。それが4年という短期間で反対意見もなく全員一致の判決となったのですね。ときの勢いに流されない、よい意味での保守性が、最高裁の特徴だと思っていたのですが。
 
―今回の決定は、この規定の成立に影響を与えた諸外国の状況が変化していることをその理由としています。確かにドイツ、フランスでは改正が行われ、嫡出子とそうでない子の相続分に差異を設けている国は欧米諸国には少なくなりました。しかし日本の家族法は様々な点でそれらの国と異なっています。例えば婚姻費用や養育費といった債権は債権者が弱者であり、債務不履行が債権者にとって致命的となるものですから、欧米では刑事罰をもって履行確保しています。しかしながら日本では履行が確保されず、不履行の割合は非常に高くなっています。また、欧米の夫婦財産制では、離婚や死別時の精算において婚姻中に形成された財産は配偶者に分割されるのが一般です。一方日本の夫婦財産制は、財産獲得能力の低い配偶者に不利な完全別産制となっています。このように婚姻保護、すなわち妻子の保護が極めて薄い日本家族法のもと、妻の財産的な権利は相続時に初めて発生する訳で、当然その際の嫡出家族と嫡出でない子の対立は熾烈なものとなります。特に現代においては、民法立法時とは産業構造も平均寿命も異なり、被相続人の子供たちはすっかりいい年齢の大人になっていて自力で稼いで生きている時代ですから、遺産を最も必要とするのはそれに生活を依存する生存配偶者です。被相続人夫妻の住居が主たる遺産であった場合、夫の死後妻の老後の居住権までもが危うくなってきます。今回の決定においては居住権を始めとして生存配偶者保護の立法的措置がなされないまま嫡出でない子の相続分が増えることとなりました。今後の立法に期待したいとは思いますが、現実にはそこまでの細かい措置がなされることは難しいかもしれません。

―日本社会においては今回の相続分差別問題のようなワンイシューがあると、それに目を囚われ一気に変えようとする方向へ流れていく傾向があるように思います。解決すべき問題がある、しかしそのまま解決してしまうと様々な副作用が出てきてしまう。その副作用を防ぐためには何をしなければならないのか、考える習慣が欠落しています。それらを見極め、責任を持って社会を運営してゆく役割を本来ならば最高裁が果たすべきだったのではないでしょうか。すなわち、本件においては家族法改正の必要性を指摘した上でのやむをえない合憲判決あるいはせいぜい違憲状態を指摘する判決に留まるべきであったと思います。
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