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【ネタ記事】ゴールドラッシュ・フロム・自販機

 5月初旬の某日、ある男は気づいた。「金がない」。財布の中身は300円足らず。通帳の残高も月末の光熱水費を差し引くと5桁目が0に限りなく近いという状態であった。なぜこんなことになってしまったのか。




横須賀にカレーを食べに行ってしまったのがまずかったのか。それとも新作のゲームや漫画を店員がドン引きするレベルで買ってしまったのがいけなかったか。しかし去って行った金のことをとやかく言ってもしょうがない。それより今月をどう乗り切るかが重要だ。アルバイトを始めるという手もあるが今は月初め、給料が振り込まれる頃にはすでに賽の河原で石積みに明け暮れていることだろう。我が貧弱な肉体では日雇いも望めない。

万事休すかと思われたが、そこは腐っても東北大生である。恵まれた頭脳をフル回転させ、短期でお金をゲットする方法を思いついた。自動販売機の下を漁るのである。諸君も幼年のころよくやったであろう。思えばこどもの日も近い。ここはひとつ、童心に返り自販機の下に我が右手を盛大に突っ込んでみようではないか。

こうして男の自販機の下漁りの旅が始まった。ターゲットは東北大の各キャンパスの自動販売機たち。男はまず農学部の雨宮キャンパスへ向かった。時刻は朝の8時半、一限へ向かう農学部生に紛れキャンパスに潜り込み自販機を探し、見つけ次第手を突っ込んでいく。しかしここでの発見は0円。とんだ無駄骨であった。幸先の悪いスタートである。

次に星陵の歯学部へ向かった。食堂の正面に自販機を発見したがタイミング悪くお姉さんがその真ん前を掃除していらっしゃる。だが退くわけにはいかない。躊躇なく地面に寝っころがり手を突っ込んでいく。お姉さんが人間に向けるにふさわしくない目つきでこっちを見ている気もしたが、そんなものを気にしたらそこで試合終了である。一通り捜索したら走って逃げた。

歯学部キャンパスでの発見は1円であった。しかしこの1円は捜索を始めて初めて手にした硬貨という意味で、男にとって大きな1円であった。

 その後も男は多くの自販機を回った。医学部で保健学科のお姉さんに怪訝な目で見られても。片平のさくらキッチンが昼食時で賑わっていても。三限終わりで人の渦巻く川内厚生会館前の自販機でも、男はただひたすらに地面に這いつくばり、自販機の下をまさぐり続けた。金だと思って必死で引きずり出したらナットだったこともあった。コインの近くに蛾の骸が横たわっていることもあった。なぜか靴も片足見つけた。しかし男はただひたすらに求め続けた。ある時は俯せで、ある時は仰向けで。暗いときはライトを用い、見づらいときは地面に頬ずりをしてでも。

最後に青葉山キャンパスを制覇した時には捜索した自販機計111機、発見した硬貨総計2753円を数えるまでになっていた。男は思った。「俺は20歳にもなって何をしているのだろう」。

 数日後、友人が男に尋ねた。「結局あの金はどうしたんだい?」男は答えた。「俺の財宝か?欲しけりゃくれてやる。探せ!この世の全てをそこに置いてきた」この一言は男たちを自販機へと駆り立てた。男たちの右手はロマンを求め、自販機の下へと突き進む。世はまさに、大自販機時代。

~完~
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