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【復興の今】イチエフの座標、フクシマの道標 中編 ~原子炉建屋に最接近~

河北新報社提供
 連載でお届けしている「イチエフの座標、フクシマの道標」。河北新報社福島総局のご協力の下、福島第一原子力発電所(イチエフ)を今年2月に視察した様子をお伝えしている。前号では、敷地内に入り、作業員の休憩所などを視察した様子を取り上げた。今号では、福島第一原発1号機から4号機にかけて視察した様子を中心に見ていく。




 視察に向かうバスの車窓から外の様子を伺うと、桜並木の下を作業員が作業着姿で歩く姿が見えた。装備も自分たちとは大差ない。筆者は先ほど見た休憩所の様子を思い返しながら、作業員が「事故現場」で過酷な作業をしているという認識を改めるべきだと感じた。少なくとも作業員は、少し特殊な「工事現場」で国の一大プロジェクトの一翼を担っていた。

 東電職員の指示でバスを降りると、目の前には水素爆発を起こした1号機があった。距離にしておよそ80メートル。この位置までほぼ普段着で近づけたことに驚きを隠せない。線量計は毎時56・5マイクロシーベルトを指していた。

 東電職員の話では、敷地内の95パーセントは「Gゾーン」と呼ばれ、防護服を必要としないエリアになっているそうだ。防護服が必要になるのは、1号機から3号機の原子炉建屋内部に入る時や汚染水の処理の時に限られる。

 そういえば周囲を見渡すと、草木が一切見当たらず、斜面が灰色の何かに覆われている。これはモルタルを吹き付けているためで、粉じんの舞い上がりを抑え、放射線量を低くするための工夫だそうだ。この時に敷地内の樹木はすべて伐採された。

 1号機にほど近い高台に上ると、原子炉建屋の今がはっきりと見て取れた。建屋上部が骨組みだけになった1号機では、がれきの撤去作業がひっきりなしに行われている。2号機では建屋内部の調査のために使われる灰色の壁の拠点が、建屋の壁に張り付くように建てられていた。3号機は、視察の前日に完成したばかりの半円型の屋根がまぶしい。早ければ今年中に始まる核燃料取り出しに向けて、準備が着々と進められていた。

 ふと視線を下へ移す。いたるところに津波によるものであろうガレキがあり、建屋下の風景はめちゃくちゃだった。「廃炉に影響のないものは後回しです」。東電職員の言葉は、廃炉には膨大な量の作業が必要であることを物語っていた。この高台では、毎時130マイクロシーベルトという放射線量を記録した。

 この高台近く、いや敷地の大半を占めていたのは、トリチウム以外の放射性物質を除去した汚染水「トリチウム水」のタンクだった。事故当時はタンクを早く大量に供給するため、工業用水タンクを利用したり、ボルトで組み立てるタンクを敷地内で建設したりして賄っていた。だが、これらのタンクは老朽化が進み、汚染水漏えいのリスクが日に日に高まっていた。また、工業用水タンクでは1基当たりの容量が約100トンと少なく、スペースを圧迫していた。

 そこで、今は1基で2900トンのトリチウム水を貯蔵できる溶接型タンクを主に用いて保管している。ボルト型タンクに入ったトリチウム水も順次移し替えている。しかし敷地内で保管できるトリチウム水の容量は約137万トン。視察日時点では100万トン近くがすでに保管されており、あと2年でいっぱいになるそうだ。それ以降どこにトリチウム水を保管できるかめどが立っていない。

 バスは建屋沿いの道路を走る。建屋に相対するように凍土壁の配管がずらっと並んでいた。地中に刺さるパイプをよく見ると、パイプに張り付くように巨大な氷の塊が見える。凍土壁って地上から見えるほど凍るものなのだな、と驚きを隠せなかった。

 そこから4号機の方へと向かうと、建物の壁に津波によってできた水の跡がはっきりと見えた。福島第一原発には東日本大震災時に最大17メートルの津波が襲った。原子炉建屋のある部分では2階までは確実に津波が来ていたように見える。津波の脅威にいたたまれなくなる。

 バスは2号機と3号機の間を通り海へと向かう。ここでの放射線量は、バス車内にいるとはいえ、この日一番の毎時290マイクロシーベルトを記録した。目を3号機に向けると、壊れた壁がむき出しになっている。本当に核を「閉じ込める」ことができているのか不安になる。無論、もし本当に「閉じ込める」ことができていないのなら、放射線量はもっと高いはずだ。だが視覚的な衝撃はあまりにも大きかった。

(次号で最終回。敷地内視察の続きをお届けし、福島のこれからについて考えていく)
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