【受章・研究成果】紫綬褒章 受章・阿尻雅文教授 ~超臨界の研究で世界をリード~
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本学材料科学高等研究所(AIMR)所属の阿尻雅文教授が、5月30日に紫綬褒章を受章した。阿尻教授は超臨界水を用いた研究に関する第一人者であり、今回の受章も、世界に先駆けて超臨界水を用いた研究を展開させてきたことによる。超臨界状態とは、物質が特定の温度圧力条件よりも高い温度と圧力の下で、液体と気体の両方の性質を持つようになった状態のことだ。それを用いた研究を始めるまでの過程や、産業への応用方法などについて話を伺った。
阿尻教授が超臨界の研究を始めたのはおよそ30年前。元々は東大で新しい物質を合成する反応を研究していた。その後、縁あって本学に赴任してきたが、配属された研究室は「高温下での物質の分離」を主な研究対象としていた。それまでの専攻分野とは異なる研究をする中で、「誰もやっていない研究をしたい」との思いを持つようになったという。そんな時、東大在籍時代の先輩の「発明は数学の四則演算と似ている」という言葉を思い出し、二つの研究内容を掛け合わせれば新しい研究ができるのではないかと考えた。高温・高圧下での物質の合成を研究している人があまりいなかったこともあり、超臨界水を利用して、これまでにない特性を持った新しい材料を合成できないか研究し始めた。
現在、超臨界を産業面で実用化しようという動きは徐々に広まっている。具体的には、新しい材料の合成や廃棄物処理などだ。超臨界状態にある水は、室温の水と比べて、水素イオンと水酸化物イオンの濃度が極めて高いという特徴を持つ。そのため、それらを酸触媒または塩基触媒として物質の分解や合成反応が進む。この性質を利用すると、室温の水では分解されない物質も超臨界水中では分解・溶解する。したがって、例えば本来であれば混ぜることの出来ないセラミックスとプラスチックも、超臨界水同士では、それらを混ぜ、そして新しい物質を合成できる。このことが、一つの研究分野に囚われず、触媒や合成などの複数の分野にまたがる新たな研究を始めると同時に、産業面での超臨界水の実用化につながるきっかけとなった。
化学工学の、実験装置を作るというシステムやプロセスの視点からは、実験中に見つけた課題の解決法を考えるという研究アプローチはあまり評価されないことも多い。そのような状況下での受章に際し、阿尻教授は「受章したことはもちろんうれしいが、それ以上に、同じ分野の若手研究者が自分の研究に自信を持つことにつながってほしい。若い人たちに元気の素を届けられたのではないだろうか」と語る。自身の研究の魅力は自分では気が付けないことが多いため、このように周囲が研究の重要性を認めてくれることが、その再認識の機会となれば、とてもありがたいという。
阿尻教授が大学教授として過ごす時間はもうあまり長くない。しかし、「『工学』は、研究成果がきちんと社会に還元されなければいけない学問分野だと思うので、今後は超臨界を用いて何か社会に大きな影響を与えられないか、ということを考えて研究を続けたい」とさらなる展開に意欲を見せた。超臨界を用いた産業はまだまだ発足したばかり。今後どのような展開をし、我々の生活に変化をもたらすのか期待がかかる。
阿尻教授が超臨界の研究を始めたのはおよそ30年前。元々は東大で新しい物質を合成する反応を研究していた。その後、縁あって本学に赴任してきたが、配属された研究室は「高温下での物質の分離」を主な研究対象としていた。それまでの専攻分野とは異なる研究をする中で、「誰もやっていない研究をしたい」との思いを持つようになったという。そんな時、東大在籍時代の先輩の「発明は数学の四則演算と似ている」という言葉を思い出し、二つの研究内容を掛け合わせれば新しい研究ができるのではないかと考えた。高温・高圧下での物質の合成を研究している人があまりいなかったこともあり、超臨界水を利用して、これまでにない特性を持った新しい材料を合成できないか研究し始めた。
現在、超臨界を産業面で実用化しようという動きは徐々に広まっている。具体的には、新しい材料の合成や廃棄物処理などだ。超臨界状態にある水は、室温の水と比べて、水素イオンと水酸化物イオンの濃度が極めて高いという特徴を持つ。そのため、それらを酸触媒または塩基触媒として物質の分解や合成反応が進む。この性質を利用すると、室温の水では分解されない物質も超臨界水中では分解・溶解する。したがって、例えば本来であれば混ぜることの出来ないセラミックスとプラスチックも、超臨界水同士では、それらを混ぜ、そして新しい物質を合成できる。このことが、一つの研究分野に囚われず、触媒や合成などの複数の分野にまたがる新たな研究を始めると同時に、産業面での超臨界水の実用化につながるきっかけとなった。
化学工学の、実験装置を作るというシステムやプロセスの視点からは、実験中に見つけた課題の解決法を考えるという研究アプローチはあまり評価されないことも多い。そのような状況下での受章に際し、阿尻教授は「受章したことはもちろんうれしいが、それ以上に、同じ分野の若手研究者が自分の研究に自信を持つことにつながってほしい。若い人たちに元気の素を届けられたのではないだろうか」と語る。自身の研究の魅力は自分では気が付けないことが多いため、このように周囲が研究の重要性を認めてくれることが、その再認識の機会となれば、とてもありがたいという。
阿尻教授が大学教授として過ごす時間はもうあまり長くない。しかし、「『工学』は、研究成果がきちんと社会に還元されなければいけない学問分野だと思うので、今後は超臨界を用いて何か社会に大きな影響を与えられないか、ということを考えて研究を続けたい」とさらなる展開に意欲を見せた。超臨界を用いた産業はまだまだ発足したばかり。今後どのような展開をし、我々の生活に変化をもたらすのか期待がかかる。