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【論点】高等教育無償化にあたって ~大学で学ぶ意義とは~

 来年4月から始まる高等教育の修学支援新制度(高等教育無償化)の政省令が、今年6月28日に公布された。低所得世帯の意欲ある学生を対象に、授業料・入学金の免除または減額と、返還を要しない給付型奨学金の大幅な拡充により、大学等への進学を支援していく方針である。

 一方で、文部科学省のHPにおける、高等教育無償化を巡る質問と回答の中で、大学院生が新制度の支援対象外であることがSNSで物議を醸した。特に、「20歳以上で就労し、一定の稼得能力がある者がいることを踏まえれば、こうした者とのバランスを考える必要があること」〈出典: 文部科学省ホームページ〉という文科省の回答について批判が多く寄せられた。

 「『周りは金稼げるんだからね』って、国はそういうスタンスなんだ」。長山拓磨さん(文・3)は思いを口にする。2021年卒の学生向けインターンシップの応募が解禁された今年6月、大学院の進学を目指し勉強をしていたという長山さん。しかし、進路の相談をした両親からの答えは、「大学院には行かせられない」。金銭的な問題が理由だった。研究の他に、自分で生活費と学費を稼いでいかなければならないことを思うと、どうしても大学院進学にためらいを覚えたという。

 院進か、就職か。進路に悩む最中に公布されたのが、高等教育無償化の新制度。大学院進学の支援は対象外だった。「精神的にきた」と長山さんは話す。また、低所得者に教育の機会を設けるはずの修学支援新制度の財源が、貧困層への影響が大きい消費税増税であることについても、「ありえない」と苦笑をもらす。

 研究職に憧れを持つという長山さんだが、大学院進学後の将来にも、不安を抱いている。1990年代の大学院重点化により、大学院の定員が増え、結果として博士号取得者は増加した。一方で、企業側が博士号取得者をほとんど採用していないなど、博士号取得者の受け皿が確立されず、任期を決めて大学の研究職に就く「ポストドクター」の数が増えた。また、正規雇用の年齢制限である、いわゆる「35歳の壁」を超えた「高齢ポスドク」が問題となっている。長山さんが関心を持つのは、フッサールやハイデガーの現象学という理論系の学問。現在大学でも尊重される、実際の社会と地続きの実学ではないため、研究職のポストを考える上でも「やっていけない」という。また、理論系の学問が就職活動で企業に評価されるのかも憂慮している。

 浪人を経て本学に入学した。「こんなに早いのか」と、専門的な研究をしたという実感が薄いまま、大学3年生となり進路選択を迫られている。「大学は、学問をするべき場所。就職予備校ではない」と長山さんは主張する。中・高卒者と大卒者の格差を是正するための高等教育無償化に理解を示しつつも、より良い収入を得るための手段として「大学」が存在していることには釈然としないものを感じている。また、今後の就職活動の早期化により、大学での研究が、企業の要請に一層影響を受ける可能性も懸念する。現在は、就職活動も進めているものの、他の学部3年生に出遅れてしまった焦りはあるという。一方で、「やりたいことは捨てきれない」。一度社会に出て、その後大学院に進学することも考えている。

 大学に来る意味とは何なのか。進路選択に悩む学部3年生の姿から、学問の価値を今一度、社会全体で見つめ直す必要がある。
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