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【書評】『へいわとせんそう』谷川俊太郎・Noritake 

 毎年夏は、戦争について考える機会が多くなるのではないだろうか。そこで今回は戦争について考える一つのきっかけとして、『へいわとせんそう』という絵本を紹介する。『二十億光年の孤独』、『女に』、『ことばあそびうた』などで知られる日本を代表する詩人の谷川俊太郎さんが文を、シンプルなモノクロドローイングで有名なイラストレーターのNoritakeさんが絵を担当。昨年の第12回MOE絵本屋さん大賞第5位に選ばれた話題の作品である。


 この絵本はその題名の通り、平和と戦争の対比から始まる。見開きの左ページには平和な世界の「ボク」、「ハハ」、「まち」、「どうぐ」などが描かれ、それぞれの右ページには戦争が起こっている世界でのそれらが描かれている。「へいわのボク」では笑っている男の子が「せんそうのボク」では泣いている。「へいわのどうぐ」では鉛筆が描かれるが、「せんそうのどうぐ」では拳銃へと変わっている。このように、平和な世界の人やもの、景色が、戦争によってどのように変化するのかが視覚的に、簡潔に表現されている。終盤は、味方の「かお」、「あさ」、「あかちゃん」と敵のそれらの比較へ移る。「かお」と「あかちゃん」のページには、服の襟の形や髪の分け目などの細かい部分は微妙に異なるものの、一見すると全く同じに見える二つの絵が並ぶ。「あさ」のページにも、類似した絵が並ぶ。絵本の前半部分では、平和な世界と戦争の世界の生活や物の違いを示して戦争の恐ろしさを表現し、後半部分では類似した絵を並べることで味方も敵も同じ人間なのだというメッセージを強調している。


 この絵本は短い言葉とシンプルな絵が特徴的だが、「せんそうのくも」のページには唯一、ビキニ環礁で行われた水爆実験の様子を収めた写真が用いられている。ページいっぱいに広がる実際のキノコ雲の写真がシンプルで柔らかなタッチの絵が続く中に突如現れるからこそ、その恐ろしさが増し、強く印象に残る。


 もし子どものときにこの絵本を読んでいたら、これらの表現の意味を理解できただろうか。「どうして敵と味方の顔が同じなのだろう」と疑問に思ったかもしれない。しかし理解できないからこそ、親子で一緒に戦争について考え話し合うきっかけになっただろう。あるいはもし文だけを読んだら、どのような絵を思い浮かべるだろうかと想像することで、自分の戦争に対する考えや感覚を発見することもできる。絵本は子どものためだけの読み物ではない。特に今回紹介した『へいわとせんそう』は大人だからこそハッとさせられる本なのではないだろうか。子どもだけはではなく、どの年代の人にも手に取ってページをめくってほしい一冊である。

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