【被災地特集 in女川町】酒井孝正さん ~今日できることを今日しっかりと~
シーパルピア女川の一角、海沿いを走る国道398号に面した場所にある、書店「本のさかい」。店内には、震災や女川町に関する書籍が所狭しと並んでいる。
店主の酒井孝正さんは、昨年まで女川町議会議員を24年間務めていた。地震発生時は3月定例会の本会議中。揺れが収まると、自宅に一旦戻り女川町役場の屋上に避難した。当時約70人ほどが役場の屋上にいたという。
「まるで映画を見ているかのようだった」と酒井さん。「震災時は雪、津波はどんどん高くなりながら壁のように追ってきた。いつもはきれいな青い海もその日は真っ黒かった」と 当時を振り返る。女川町を襲った津波の高さは最大34・6メートルにも及んだ。
仮設住宅が整備されるまでの間、女川町体育館で避難生活を送った。そんな中、炊き出しをしたいと考えたものの調理道具がなく、津波で破壊された水産冷蔵庫から溢れた冷凍魚類を旧女川二小の前でそのまま焼いて提供した。しかし、終わりが近づくと、それを知った避難者が「(魚を)半分にしろ!」と言い出し、混乱を招いてしまった。
「空間と食べ物が十分になければ人は変わってしまうものだ」と 酒井さんは語る。
女川町は防潮堤をつくらなかったことでも知られる。「女川町は道路を防潮堤とし、津波は逃げる減災のまちづくりに取り組んできた」と 酒井さんは解説する。
震災を通して、酒井さんは自分の都合で生きられるわけではないということを強く意識するようになった。「今日できることを今日しっかりやる。これの積み重ねの先に未来がある」 と力強く語る酒井さん。現在は書店を営む傍ら、店内で震災に関する語り部活動も行う。今後の女川を見据え、酒井さんは今日も女川で本と自らの学びを届け続ける。