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【新入生向け2021・特別インタビュー】 押谷仁 教授 ~「パンデミック 必ずまた」社会のあり方を考え直す~

 政府による新型コロナウイルス感染症対策の中枢を担い、コロナ禍で日本の活路を見出だそうとする新型コロナウイルス感染症対策分科会(以下、分科会)。ウイルス感染症の専門家として分科会に籍を置き、新型コロナと社会の未来を見据える本学医学系研究科の押谷仁教授に話を聞いた。(取材は3月10日に実施)



―どのような学生生活を過ごしたか


 「艮崚山(ごんりょうやま)の会」という東北大の登山サークルで、山にばかり登っていました。今も学友会山岳部の部長を務めています。留年もしていて、真面目ではなかったです。



―印象深い出来事は


 卒業後の進路に悩んでいたとき、世界的なウイルス学者で、当時総長を務められていた石田名香雄先生に相談に乗っていただきました。6年生の夏、他の医学部の先生に相談した際、「石田先生に相談に行け」と言われてしまって。当時は「そんなもんかな」と思ったのですが、今思うとよく行けましたね。忙しい中、一介の学生の話を親身に聞いてくださって、今の道が開けました。東北大らしい面倒見の良さだと思います。


 「海外のフィールドで活動したい」と伝えると、「海外なら感染症だ。すぐにアメリカの公衆衛生大学院に行け」と言われました。当時は天然痘が根絶されたこともあり、「感染症の時代は終わった」と言われていましたが、卒業後は、石田先生に紹介していただいた先生のもとでウイルスの勉強をして、アフリカに行きました。結局、アメリカの公衆衛生大学院に行けたのは、石田先生と話してから10年後です。



―WHOでSARSなどの新興感染症の対応にあたり学んだことは


 想定外の状況で、いかに最適解を探るかを常に考えることです。SARSに関しては、流行自体が想定外でした。SARSの流行以前、ウイルス学者の多くは「コロナは大した流行を引き起こさない、鼻かぜ程度のウイルス」と考えていて、世界中の誰も、2003年のSARSのような流行が起こることは想定していなかったでしょう。感染症の流行において、全てを想定するのは不可能です。誰も最適解を持っていない中で、リスクアセスメントを適切に行う必要があります。



―分科会とは


 感染症対策の専門家会議に、経済や政治などの専門家も加えて、いかに被害を最小限に抑えるのかを、広い視点で考える会議です。ただ、中途半端な対策を実施して何度も緊急事態宣言を発令しなければいけなくなることは、経済の観点からも最悪のシナリオです。現在では、経済の専門家からも厳格なコントロールが主張されています。


 政府に対して分科会からさまざまな提言をしていますが、政策を決定するのは政府です。宣言の発令や延長など、実施された提言も多くある一方で、やむを得ない事情により政策に反映されないこともあります。昨年末には、首都圏での制限を強化すべきとの提言がなされましたが、実行には移されませんでした。



―日本の感染状況は


 日本の対策の基本は「お願いベース」で、法的な強制力は他国に比べて非常に緩やかです。ある程度の感染を抑えることはできますが、個人の自発的な行動変容に依存しており、人々の行動はすぐには変わりません。昨年11月下旬からの「勝負の3週間」は記憶に新しいのではないでしょうか。専門家の間では、昨年12月にかけて感染者数は必ず増えるという認識が共有され、政府も注意喚起していました。しかし、大晦日に東京都で1300人の感染が確認されるまで、人々に行動変容は起こりませんでした。人々に「見えていること」と専門家が見る「今後起こること」がうまくつながりません。


 現在も人々の行動は緩みつつあり、リバウンドの兆候も見られていますが、これ以上の制限は困難です。宣言解除後、人々の行動によっては、リバウンドの可能性もかなり高いです。



―ワクチン接種の効果は


 現状としては、当初考えられていたよりも有効性の高いワクチンが開発されていますが、長期的な有効性はまだ分かりません。しかし、ウイルスをなくすことは、短期的にはできないでしょう。現在は高齢者の接種が進められており、重症者数は減ると期待できますが、流行は主に若者によって拡大しています。20代から50代の中でも、特に行動変容が起こりづらい層にも十分な接種が進まない限り、流行は止められません。


 十分にワクチン接種が進めば、流行は収束するでしょうが、どれくらいの時間が必要かは分かりません。接種を進める間に、ワクチンが有効でない変異株が生まれる可能性など、さまざまな不確定要素もあります。



―今後の社会について


 21世紀に入り、世界は急速にぜい弱になりました。20年前、武漢は今ほど大きな都市ではありませんでしたが、近代自動車産業のハブとして、1000万人を超える人口を抱える都市に成長し、感染確認当時には日本人を含む多くの外国人が滞在していました。昨年3月にマスクの供給不足が起こったのも、中国に輸入を依存していたためです。


 流行の収束まではあと1年はかかります。パンデミックも、必ずまた起こります。感染症により強じんな社会をつくることが、今求められます。


 日本には10年前、社会を変容するチャンスがありました。3・11当時も、一部の自動車部品の供給を福島に依存しており、自動車産業が打撃を受けています。経済効率を優先するあまり社会の余裕が失われていると10年前から叫ばれていたのです。病床のひっ迫も取り上げられていますが、病院はベッド占有率が100%近くないと経営が成り立たちません。


 欧米を見れば、ウイルスの完全排除が不可能だと分かります。また、都市部で感染がコントロールできないことの根底には、外国人労働者や定職につけない若者、シングルマザーの貧困などの社会的な問題があるでしょう。感染症だけでなく、社会的な問題を抱えた人々とも共生する道を探らなければいけません。



―新入生や本学学生に向けて一言


 さまざまな問題が顕在化した今、社会の在り方を考え直す必要があります。しかし、これからの社会は私たちの世代ではなく、皆さんのものです。皆さん自ら、これからの社会をどうしていきたいのかを考えてください。皆さんのつくる新しい社会に期待します。



◎押谷仁教授の経歴

専門はウイルス感染症研究。1987年に本学の医学部を卒業後、91年からJICA専門家としてアフリカに滞在。97年にテキサス大学公衆衛生大学院で公衆衛生修士を取得。99年からWHO西太平洋地域事務局感染症地域アドバイザーとして活動し、2005年から本学医学系研究科に所属。

特別インタビュー 254569357441695776

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