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【研究】Wi-Fiで発電 CO2削減に期待 ~スピントロニクスで新成果~

 本学電気通信研究所の深見俊輔教授が、シンガポール国立大学のヒュンスー・ヤン教授のグループと共同で、Wi‐Fiの電波で発電するスピントロニクス技術を開発したことが5月14日に発表された。電磁波としてWi‐Fiが持つ磁気のエネルギーを、専用の素子で電気に変換する仕組みだ。この技術によって、将来的には発電による二酸化炭素排出を抑制することが期待される。





今回成功したのは、Wi‐Fiによって発電する素子の開発と、この素子を用いてLEDを1分間光らせる実験だ。素子とは、電気回路の中で重要な役割を持つ部品のことで、今回開発された素子は人の髪の毛の直径のおよそ1000分の1の大きさだ。この素子は「磁気トンネル接合」と呼ばれ、すでに電子機器に用いられる不揮発性メモリーなどでデジタル情報を記憶する素子として実用化されている。


 今回の研究ではこの磁気トンネル接合の磁化が電磁波に応答して直流電圧を生成する機能が用いられている。単体の磁気トンネル接合では出力の強度が不十分であることから、これまで複数の素子を用いた発電が試みられていたが、Wi‐Fiの周波数の電磁波で動作させるための有効な実現方法は明らかになっていなかった。深見教授らの研究グループは、磁気トンネル接合の自由層の膜厚と形状を精密に制御することで、磁化を高い発電効率が得られる方向に安定させることで、複数の素子を動作させることを可能にした。実験では、この素子を8個繋ぎ合わせ、Wi‐Fiと同じ2・4ギガヘルツの電波を発するアンテナ付近に設置して直流電圧信号に変換し、コンデンサを5秒充電してLEDを1分光らせることに成功した。直列接続と並列接続を併用し、最適化することで大きな出力電圧が得られるようになった。


 研究は2017年から始まり、数カ月の素子の開発と、2年ほどのシンガポール大学での実験を経て行われた。素子がわずか数カ月という短期間で開発された背景には、本学のスピントロニクス技術の蓄積がある。スピントロニクスとは、過去別々に利用されてきた電子が持つ電気的な性質(エレクトロニクス)と磁気的な性質(スピン)を併せて利用しようとする工学的分野のことだ。本学総長の大野教授が10年ほど前から積極的に研究を推し進めた結果、現在本学の研究分野の中でも多くの功績を上げる分野となっており、「世界トップレベル研究拠点」として強化分野に指定されている。


 今回開発された技術や太陽光発電、風力発電などの環境にもともとあるエネルギーを用いて発電する技術は、環境発電と呼ばれている。現在、二酸化炭素排出は多くが発電で占められており、その割合は日本では4割にも上る。環境発電によって、火力発電などの発電による二酸化炭素排出量の削減が期待できる。技術の具体的な活用法としては、2010年代から普及が進む、モノを直接インターネットに繋ぐという考え方を利用したIoT機器を、ワイヤレス・バッテリーフリー化することなどが期待される。


 深見教授は今後、素子の数を増やす、接続の仕方を工夫するなどして発電量を増やす実験を行い、実用化に向け開発を進めていく。

研究成果 2249258722684104098
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