【入学お祝い号2022・一言居士】ー2022年4月ー
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桜は古来日本で愛されてきた花だが、はかなさや寂しさを表わすことが多い。「ほれぼれと桜吹雪の中をゆくさみしき修羅の一人となりて」(『天の鶴群』より)。歌人岡野弘彦さんの短歌もその一つだ▼1945年4月13日、軍へ入隊したばかりの岡野さんは、東京で城北大空襲を経験し、遺体を処理する任務に当たった。「修羅」とは果てしない争いや激しい怒りのことを指す。この歌を詠んだ彼の心には、空襲の日の光景がどれほどまで蘇っていただろう▼思えば、昨年は悲しい出来事が多い一年だった。地震に土石流、クーデターといったニュースは記憶に新しい。しかし、何より身近であったのは新型コロナウイルス感染症だろう。もう2年も自由に外出できない日々が続いている▼これは、岡野さんが経験したような凄惨な戦争とは違う。しかし新入生の皆さんにとって、高校の思い出作りに我慢を強いられる憤り、そして感染の不安を抱えながらの受験勉強は、ある種の「戦争」だったのではあるまいか▼「戦争」を乗り越えた新入生の皆さんへ。桜吹雪が「さみしき修羅」ではなく、新生活への祝福のたとえとなる日々を願っている。
(文責・増田)
修羅(しゅら)
天(あめ)の鶴群(たづむら)
蘇(よみがえ)る