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【ネタ記事】報道部員、知識ゼロで「芋煮」作り ~エビとレンコン、案外おいしく~

  肌寒い日が増え、温かい鍋料理が恋しい季節がやってきた。そう、もうすっかり芋煮のシーズンである。などと知った風な口を叩いている筆者は、芋煮とは縁遠い京都府出身の1年生。当然、芋煮会に参加したことはない。筆者と同じように芋煮を食べたことのない部員が集い、今回お届けするのは、想像と思い込みだけで芋煮を作るという、無謀なチャレンジ企画である。(恵利一花)


 はたして、どのような芋煮が出来上がるだろうか。



 スーパーに到着したわれわれが初めに取りかかったのは、芋煮作りにおいての命とも言える作業、「芋選び」である。いかに上質な芋を目利きするかという意味ではない。芋煮文化圏外の人間にとっての戦いは、たくさんの種類がある「何とか芋」のうち、いったい何芋を使うのかを決めるところから始まるのだ。



 しかしながら、どの芋も魅力的で捨てがたい。両手に芋を抱えてうんうんと悩んだ結果、われわれはサトイモ、ジャガイモ、ナガイモを、なんと全て購入した。買い物かごの中はすでにカオス状態。部員内でも「多分かなり間違っている」という不安げな雰囲気が漂う。しかし、なんせ名前が「芋煮」なのである。芋が多すぎて困ることはないはずだ。



 次は、鍋に合いそうな野菜を探す。すると、野菜売り場の隅に「芋煮用野菜詰め合わせ」などという便利商品が陳列されていた。さすがは秋の仙台。あらゆるところに芋煮の影が潜み、隙あらばネタバレを食らわせようと目を光らせている。なんとか見て見ぬふりをし、レンコン、ニンジン、絹さやと、煮物あるあるの具材を買い集めた。あとは肉だけだ。決着は一瞬。「どうせなら、ぜいたくしたい」という部員たちの切実な思いから、全会一致で牛肉が選ばれた。



 これで大方の具材は出そろったが、どこか物足りない。これでは芋煮というか、芋のバリエーションが豊かな肉じゃがではないか。筆者がそんな不安を抱いていると、青森県出身の部員が「これなんか良いんじゃない」と、海鮮コーナーを指さした。その先にあったものは、なんとエビ。思いもよらないアイデアだったが、並べてみると意外とそれっぽいのだ。天才の発想である。エビを手にしたその部員は、ふざけているのか真面目なのか分からないすまし顔で「東北は寒いから温まろう」と言い、ショウガも買い物かごに放り込んだ。


~材料~

エビ、牛肉、ナガイモ、ジャガイモ、サトイモ、

ショウガ、レンコン、絹さや、ニンジン、

みりん、料理酒、しょうゆ、液みそ


 買い物を終え、早速調理に取りかかる。問題は味付けだが、「困ったらとりあえずしょうゆ」ということで、具材を全てつっこんだ鍋に、どぼどぼとしょうゆを注いだ。あとは、気持ち程度に料理酒とみりん。鍋にふたをし、このまま火が通るまで煮込めば、念願の芋煮もついに完成である。


調理中の鍋。牛肉とエビ、
レンコンを始めとする具材を煮ていく。


 さて、われわれが想像と思い込みだけで作った芋煮を見て、「『芋煮』の『い』の字もない」と思った人や、「ジャガイモが入っていることに目をつぶれば許せる」という人、「これはわが家の芋煮そのものだ」と思った人など、さまざまな人がいることだろう。それもそのはず、芋煮の味付けや具材は、地域によって多種多様なのである。



 例えば、東北大学が位置するここ仙台では、豚肉を使い、味噌で味を付けるのがスタンダードのようだ。われわれが作ったものは、牛肉にしょうゆ風味。強いていうならば、山形県の内陸地方での食べ方に近いものであった。今思うと双方に怒られそうなものを作ってしまったわけだが、われわれは大真面目である。いつかエビ入りの芋煮がポピュラーになり、第三の勢力として芋煮戦争の仲介役をする日も遠くないかもしれない。



 鍋のふたを開けると、湯気とともにツンと香るショウガの匂い。すでにこの時点で芋煮ではない何か別の鍋であるが、しかしこれが、食べてみると案外悪くない。味が少々薄く、「素材ゴロゴロ感」は否めないが、エビとニンジンのおかげで見た目も華やかである。「料理酒を入れた瞬間に突然おいしくなった」という意見が散見されたのを見ると、アルコールの力は偉大だということか。


レシピ通りの芋煮(左)と「報道部員お手製・想像芋煮」(右)。
想像芋煮のほうは、レンコンが異色を放つ。

 しかしこの企画、これだけでは終われない。一日中芋煮のことを考えていると、さすがに正解が気になってくるのである。それを見越し、われわれと同時進行で、芋煮を知っている部員にも、芋煮を作ってもらっていた。基本は同じ、牛肉に、しょうゆ仕立てのつゆ。材料は里芋と牛肉のほかに、ごぼうとこんにゃくとネギのみ。すでに芋煮を理解した気になっているわれわれは、「絶対エビ入れた方がいいよ」などと生意気を言いながら一口いただいた。しかしその一口で衝撃が走る。素朴ながら、洗練された味。無駄が一切なく、鍋全体が一つの料理として完成されている。これが、芋煮──。嫌でも理解してしまう。多分、芋煮にエビは、いらない。先人たちが積み上げてきた食の歴史に、われわれはひれ伏すことしかできなかった。

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