【連載】【思い出バトン】曖昧な祖母の記憶
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人生最初の記憶。それは残暑厳しい秋の日のこと。当時2歳だった著者は祖母に手を引かれ、帰路についていた。しばらく歩いて家に到着。祖母は蛇口に著者を連れていき、「手を洗おうね」と言いながら筆者の手に、ある粉末を振りかけた。粉せっけんだ。
「それは『おせんたくのやつ』では?」。幼かった著者も、さすがにその行動には驚いた。その時の祖母の姿は全く覚えていないのに、出来事だけを詳細に覚えているくらいには。
その年の冬、祖母は死んだ。がんだった。仏間に横たわる祖母、「おばあちゃんとばいばいしよう」と泣く母、線香の匂い。全部鮮明に覚えている。
祖母に関する二つだけの記憶。より鮮明なのは後者だ。しかし、いつも思い出すのは、あの日2歳の孫を困惑させた祖母なのである。
祖母は幼い孫にトラウマを残さぬよう、自身の死よりも衝撃的な思い出をくれたのだろうか。それにしてはやりすぎだとあきれながら、今年も祖母の仏壇に線香を立てた。(増田千夏)