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【書評】『銀河鉄道の父』門井慶喜 著

  宮沢賢治の没後90年にあたる今年、門井慶喜著『銀河鉄道の父』が映画化され、大きな話題を呼んだ。『銀河鉄道の夜』や『雨ニモマケズ』などの優れた詩や物語を残したことで広く知られる賢治だが、生前は無名の作家だった。賢治を支え、作品を後世に伝えるにあたって重要な役割を担ったのが、宮沢家の人々である。本作では、父・政次郎の視点から「息子としての宮沢賢治」の生涯と彼を支えた家族の絆が描かれている。



 地元でも有数の商家である宮沢家の長男として生まれた賢治だったが、家業を継ぎたがらないばかりか、製飴工場や人造宝石の事業を起こしたいと言い出す。さらには法華経に傾倒し、教えを広めようと町中で騒ぎを起こす。政次郎は、無茶な言動をとる賢治に家長として厳しく接しようとするが、愛情から甘やかしてしまうことも多かった。



『銀河鉄道の父』門井慶喜



 やがて、賢治は妹・トシの病気をきっかけに創作を始める。政次郎は、そんな賢治に対し複雑な思いを抱いていた。妹の死への悲しみを乗り越え、作家活動にいそしむ賢治だったが、その体は病にむしばまれつつあった。



 史実に基づく展開だけでなく、新たな解釈が加えられている点が本作の魅力の一つだ。特に印象的なのが、妹・トシの人物像だ。賢治による詩『永訣の朝』から抱かれがちな「早世した不憫な少女」というイメージにとらわれていない。家父長制が強い時代に、父に対し活発に意見を主張する、賢治に引けを取らないほどの文章力を持つなど、聡明ではつらつとした女性として描かれる。



 新たな視点から文豪・宮沢賢治を捉えた本作だが、現代の我々に共感できる場面や心情も多い。賢治ファンはもちろん、そうでない方にもぜひ手に取っていただきたい。

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