拡大図る産学連携の現状 社会的価値の創出 支援伸ばす
学術機関、企業、政府を連動させ、経済的価値を創出する産学連携には大きな期待が寄せられている。本学産学連携機構・スタートアップ事業化センターに取材し、産学連携の実態を探る。
■資金受け入れ6年で倍増
国内の各地で近年、経費削減と研究力の強化を目指し、かつて企業組織の一部であった日系企業の研究所が、活動拠点を共創研究所として大学のキャンパスに移転させつつある。本学では人材マッチングと施設の共用などで企業のニーズに応え、大規模な産学連携を行う基盤が整備されている。本学の産学連携支援においては、伝統的に強みとしてきた半導体やバイオなどの科学技術分野が中軸として位置付けられている。
学内の民間企業などからの研究資金受け入れ額は、2017年から23年にかけて55億円から105億円に成長した。また、本学が出資する大学発ベンチャーへの投資ファンド「THVP―1号投資事業有限責任組合」では、割合の高い順に医療・バイオ、材料、電気電子、情報通信、機械の5分野に配分されている。
その一方、地域課題解決型の文系分野や、文理融合領域のスタートアップも数多くあり、近年発達の勢いを増しているが、規模がまだ比較的小さい傾向が見られる。
■学部低学年からの実践演習
民間企業への技術の移転、産業創出につながる産学連携には理系の研究室が関わる場合が多い。その前提として必要とされる幅広い知識と業界経験を、学部低学年の段階で身につけることは難しい。そこで本学では後者について、低学年時に行われる全学教育でアントレプレナーシップ講義を設け、さらに交流会、ビジネスアイデアコンテストといった小規模な起業支援基金の取り組みを設定することで、初級実践の場を提供する。
また、起業に向けた準備をしている教職員、修士および博士課程の学生に対し、1件500万円までのギャップファンドプログラムが設置されている。大学発ベンチャーファンドはこの延長線上で、事業性が検証されたスタートアップに対する、億単位の支援体制として置かれる。
■拠点都市としての仙台
東京、名古屋、関西、福岡は現在スタートアップ・エコシステムのグローバル拠点として内閣府に認定されており、仙台はそれに次ぐ推進拠点となっている。全国の産学連携は東京を中心とする傾向がみられるが、地方は異なる指標で活動が評価されるため、実績を単純に比較して順位をつけることは難しい。
仙台市によると、スタートアップの創出数は264社で全国トップクラスだが、資金調達額は43・7億円で東京、関西といった巨大都市圏と大きな差が見られる。東日本大震災の後、東北地方は復興支援を受け、地域課題解決型の小規模スタートアップが数多く生まれたが、人口数や都市としての規模からか、その他の拠点都市ほど大規模な産学連携案件が集まっていない。
■市内のスタートアップ拠点
本学は仙台市と共同オフィスを展開し、さらに行政・金融機関・ベンチャーキャピタルと連動してスタートアップ支援体制を整えている。現在、仙台市内にスタートアップ拠点は4カ所設置されており、そのうち3カ所が本学キャンパス内に位置する、「青葉山ガレージ」、「川内ガレージ」と「星陵ガレージ」である。
21年にオープンした本学の全ての起業関係者に開かれた共創スペース「青葉山ガレージ」は、法人登記やコワーキングが可能なシェアオフィスとして機能している。入居は月8000円。数多くの教職員や学生発スタートアップがビジネス拠点を構える。
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日系企業の組織変遷と学生アントレプレナーシップ文化の普及に伴い、日本の産学連携は活発化している。本学が強みを持つ分野での共同研究はもちろん、学生発スタートアップの活躍も期待されている。