読み込み中

【研究成果】ミジンコの遺伝子型 解明 ~生科研 国内生息個体の謎 深まる~

 生命科学研究科(理学部生物学科)の占部城太郎教授らの研究チームが、日本で生息する和名ミジンコの遺伝的多様性は極めて乏しく、全個体の遺伝子型が4タイプに分類できることを突き止めた。加えてそれらはすべて純系の在来種では無く、外来種との雑種であることも明らかにした。




 和名ミジンコと呼ばれるDaphnia pulex(D.plex)は、北米を始め北半球各地で分布しており、日本でも確認されている。先行研究により、北米に生息するD.plexは遺伝子型によ少なくとも8種以上のさらに細かい種へ分かれることが判明していた。またその中には雌のみで休眠卵を産卵する絶対単為生殖型と、雄と雌が交尾をして休眠卵を産卵する循環単為生殖型が混在していた。

 日本に生息する和名ミジンコは、これまで特定されたD.plexの遺伝子型のどれかに分類されるのか、もしくは日本の固有種なのか。占部教授らは北海道から沖縄にかけて全301か所の湖やため池を調査した。そのうち和名ミジンコが発見された35か所から合計218個体を採取。各個体について、乳酸脱水素酵素(LDH)に関わる遺伝子、マイクロサテライト(*)、およびミトコンドリアDNAを先行研究で発見された種と比較した。

 この結果、ミトコンドリアDNAの違いからJPN1、JPN2、JPN3、JPN4の4種類の遺伝子型が発見された。これらのLDHを調べると(**)、全てがD.plexと、北米に生息するDaphnia pulicariaという別のミジンコ種との雑種であり、かつ絶対単為生殖型であることも分かった。さらにそれぞれの系統では個体ごとの核DNAの遺伝子配列が一致し、有性生殖を行った形跡は確認されなかった。

 ただし、JPN1とJPN2では系統内でミトコンドリアDNAの遺伝子配列が2~3塩基置換した型が見つかった。調べた核DNAの遺伝子配列には変化がなかったことから、この変異は国内への侵入後に生じたと考えられる。ミジンコのミトコンドリアDNAにおける、一世代ごとに1塩基が変異する確率と頻度から、この変異までには700年~3000年前を要したと算出された。つまり、JPN1とJPN2はこの頃に日本へ侵入したと予測される。

JPN3、JPN4はミトコンドリアDNAの変異がほぼ無く、日本へ侵入したのは近年だと考えられている。その原因は外来産の水草や魚の放流など、人による媒介だと予想できる。一方でJPN1とJPN2は、年代の点で人からの媒介とは考えにくく、侵入経路は分かっていない。

 ほかにも疑問は残されている。絶対単為生殖型の親と子はいわばクローンの関係にあたり、DNAは変化しない。そのためウイルスへの感染や有害遺伝子への突然変異による絶滅のリスクが非常に高い。絶対単為生殖型を維持したままどのように生息し続けたのか。占部教授は「これが分かれば、遺伝的多様性の持つ意味が分かるかもしれない」と話す。

 遺伝子型の異なる個体群が、一つの池でなぜ共存が可能なのかも未解明である。「生態的地位が同じなら、遺伝子型間で競争が激しいはず」と占部教授は語る。今後は池や湖の底の堆積物を調べ、過去にそこから消滅した種がいなかったかを調べていくという。和名ミジンコが持つ多くの謎を解明するべく、歩みを進める。

(*)……核DNAの遺伝子配列の一種
(**)……LDHに関わる遺伝子は、純系ではホモ、雑種ではヘテロを示す

研究成果 3749924979381286252
ホーム item

報道部へ入部を希望する方へ

 報道部への入部は、多くの人に見られる文章を書いてみたい、メディアについて知りたい、多くの社会人の方と会ってみたい、楽しい仲間と巡り合いたい、どんな動機でも大丈夫です。ご連絡は、本ホームページやTwitterまでお寄せください。

Twitter

Random Posts