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【研究成果】新たな脳神経細胞を発見 ~脳活動の研究に大きな前進~


 本学大学院医学系研究科の虫明元教授らのグループに所属する中島敏助手が、実験により脳内での新たな神経細胞活動を発見した。この発見は脳の活動のメカニズムに関わる研究を大きく前進させるものであり、今後の脳科学への応用が期待される。

 実験はサルを用いて行われた。まずサルに赤色は左手で外向きの回転(回外)、青色は右手で内向きの回転(回内)といったように、モニターへ映された4色の信号と4つの動作の対応関係を学習させる。次に4色のうち1色の信号と新しい信号を同時に示し、それぞれの色に対応した順序動作を行わせる(これによりサルは新しい信号が動作を開始するための信号であると認識する)。その後色の提示を取り除き、動作開始のための信号のみを2回与える。するとサルは合計16通りの行動の中の1通りを実行する。この時同時に補足運動野と前補足運動野(サルにも人間にも存在する前頭葉内側の領域)の細胞活動を調べることで、脳が行動を選択する過程の解明が進められた。

 複数の動作を何回か組み合わせた連続的な動作を順序動作と呼ぶ。実験に際して、サルが順序動作を符号化して記憶・選択する戦略として二つの戦略が想定された。一つは個別符号化と呼ばれる戦略で、全ての順序動作をそれぞれ記憶し16通りから1通りを選ぶ。もう一つはグループ符号化と呼ばれる戦略で、右手か左手かを選ぶ左右の手の順序を記憶するグループと、回内か回外か動作内容の順序を記憶するグループに細胞を分けてそれぞれを組み合わせ、一つの運動を決定する。結果としてはどちらの符号化についても行う細胞は存在した。しかしその比率には圧倒的な差が存在し、多くの細胞はグループ符号化を行っていたことが分かったのだ。

 個別符号化の考え方は知られていたが、指数関数的に増える順序動作の組み合わせに対して限界が生じることが指摘されていた。更にこの符号化は1つの細胞が異常をきたした際に行動の全てへそれが伝わりやすいという問題を抱えている。これに対してグループ符号化では異常が発生しても影響はグループ内にとどまる。そのため細胞群全体の活動には支障が出にくい。またグループ符号化は一つの情報がいくつかの細胞群で構築されている。さらに一つの細胞が符号化するのは特定の属性だけであるため、簡単かつ便利である。動作はこれにより新たな情報を構築する(たとえばこの実験でもっと長い順序動作を記憶させる)ときにもあらかじめ存在した細胞群を使い回し、増大する動作の組み合わせに対応できる。このようにグループ符号化は個別符号化の抱える「組み合わせ数の爆発」と呼ばれる欠点を軽減するための利点が数多く存在する。

 このような細胞活動が確立された経緯として、虫明教授は「数少ない動作を選択し実行する状況では、我々の脳細胞の多くが個別符号化の戦略をとっていたのではないでしょうか。進化の過程で実行可能な動作が増えるにしたがい、グループ符号化という戦略を獲得したと考えられます。」と述べた。

 各グループの細胞はそもそもどのように作られているのか、また一つの順序動作を組み替えたり維持したりする仕組みがどのようなものであるかは未だに解明されていない。今後の展望として虫明教授は、「脳が新しい情報を創りだす原理を調べることで、神経疾患の原因を突き止めたりより人間に近い人工知能が開発されたりすることが可能になるかもしれない」と語った。
研究成果 3692607562136390320
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