【連載】【思い出バトン】鮮明だった音楽 今は遠く
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初めてイヤホンで音楽を聴いた日のことを、ふと思い出した。13年前、私は小学1年生。昼下がりのリビングで、見もしないテレビをつけたまま、私は身にならない計算ドリルを食卓に広げていた。ふと見た先に、母が置きっぱなしにしたシルバーのウォークマン。私はそれを何げなく手に取り、イヤホンを差して、耳にはめた。流れ出したのは、当時はやっていたAKB48の「ヘビーローテーション」。
衝撃だった。イヤホンを通して音が脳に直接流れ込み、音楽の他には何も聞こえなかった。つけっぱなしのワイドショーも、2階で母が掃除機をかける音すら、まるで無くなってしまったようだ。ただ世界に、ギターの音と「アイウォンチュー」の声だけが響いていた。
どうしてそんな昔のことを、突然思い出したのだろう。その理由はぼんやりと分かっていた。私は多分、幼い頃の自分に嫉妬している。イヤホン一つで心から震えられた、あの頃の自分に。近頃ではいくら音楽を流してもかすみがかかったようで、何か足りないのだ。くたびれたイヤホンは今でも、あの頃と変わらない音楽の世界へと私を連れて行ってくれるはずなのに。(恵利一花)